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第376回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2015. 8.21
■続ゲンさんの新聞勧誘営業講座 その2 新聞勧誘営業の基本的な考え方
それでは、今回から本格的に『続ゲンさんの新聞勧誘営業講座』を始めたいと思う。
すべての営業行為が、そうであるように新聞勧誘にも、これだけは絶対守らなあかん、心得ておいた方がええというものがある。
それが基本や。
しかし、新聞勧誘の現場で、その基本ができていない者がいるという話をよく聞く。特に、勧誘される客側の人から、そう指摘されることが多い。
それには、この業界で最初から、きちんとした基本を教えている新聞拡張団が少ないということに起因しているものと考える。
したがって、ここでは『新聞勧誘営業の基本的な考え方』と題して話したいと思う。
続ゲンさんの新聞勧誘営業講座 その2 新聞勧誘営業の基本的な考え方
1.笑顔を絶やすな
これは、新聞勧誘に限らず、すべての営業マンが心得ておかなあかん基本中の基本やと考える。
「笑顔を絶やすな」ということが守れんようでは、悪いが営業の仕事には向いてないさかい即刻辞めた方がええと言うとく。続けるだけ無駄だと。
中には、「脅して契約をさせるのに、笑顔なんか必要ない」と言う者もおるかも知れんが、そんなやり方が通用したのは、はるか昔のことや。
今は、そんなやり方で契約を取っても、すぐに「クーリング・オフ」をされて終いやし、「クーリング・オフ」をしたことでヘタに文句を言うて怒鳴り込めば、それだけで逮捕される可能性がある。実際に逮捕された人間もいとるしな。
また「引っかけ」のような騙しの契約も、つい最近までは不法行為すれすれのグレーゾーンと思われていたが、2009年12月1日に施行された、『特定商取引に関する法律』の改正法第3条ノ2第1項「勧誘の意志の確認」(注1.巻末参考ページ参照)で完全に違法行為として分類されることになった。
さらに、2013年11月21日。日本新聞協会、および新聞公正取引協議会が「新聞購読契約ガイドライン」(注2.巻末参考ページ参照)が発表されたことで、新聞勧誘行為の規制が強化され、すべての不正行為で為された契約は解約に応じなければならないと決まった。
これは法律ではないが、日本新聞協会、および新聞公正取引協議会の決定なので業界の人間にとっては、ある意味、法律よりも厳しい。
つまり、従来から続いている不正行為は、すべてあかんようになったということや。
そうなると、当たり前のことやが、真っ当な営業行為で契約を得るしかない。
そのためには、新聞勧誘などの対面営業において最も重要なのが「笑顔を絶やすな」ということだとワシは考えとる。
笑顔でいれば明るい雰囲気を醸し出すことができる。
人は感情の動物で、明るい雰囲気の人間と接すると安心する。逆に、しかめっ面や苦虫をかみつぶしたような暗い人間に対しては無意識のうちに困難を避けようとする本能が働いて拒否する行動を取るようになる。
よくインターホンに向かって「話だけでも聞いてください」と懇願するのだが、その殆どで相手にすらされないとボヤく新聞勧誘員がいる。
その時の状況を、その勧誘員たちに訊くと、たいていはインターホンに向かって必死で話すことに集中して、笑顔を作っている余裕などないとのことやった。
それでは、「インターホン・キック」されるのも無理はない。
逆の立場に立って考えて見たら分かると思うが、見ず知らずの人間が必死になって「話を聞いてください」と言われて、その気になるやろうかということや。
まずならんわな。そんなうっとうしい人間など、できれば相手をしたくないと考えるのが普通や。
「テレビカメラ付きのインター・ホンなら、それも分かるが声だけの場合だったら、笑顔かどうかは相手には分からないのでは」と言う者もおるかも知れんが、それは間違っている。
人は笑顔の状態で話すのと、そうでない状態で話すのとでは言葉の響き、伝わり方がまるで違う。
当然やが、笑顔で話せば明るく聞こえ、そうでない場合はそうは聞こえない。それが必死な声やったら、嫌悪感すら抱く人もおられる。
例え相手に顔が見えていない場合であっても笑顔で話すのと、そうでない状態で話すのとでは雲泥の差があると知っておいて欲しい。
笑顔による効果は他にも幾つかある。
人には笑顔を作るための表情筋が顔全体にある。笑顔により表情筋が活性化することで脳の血流が良くなり、脳細胞が活性化すると言われている。
つまり、常に笑顔を作っているだけで賢くなれる可能性が高いということやな。
また、笑顔になることによって脳内に心のバランスを整える働きをする「セロトニン」という物質が増え、脳はストレスに強くなり、リラックスしやすい状態を保ち、プラス思考になれると医学書にも書いてある。
さらに、笑うとリンパ球の一種であるNK(ナチュラルキラー細胞)が活発に活動し、身体に入ってきた異物やウィルス、および癌細胞を攻撃すると言われている。
笑顔を作り、笑うことで活性化した血流は、細胞を活性化する神経伝達物質「神経ペプチド」を身体の隅々まで運ぶ。
この「神経ペプチド」のおかげでパワーアップしたNK(ナチュラルキラー細胞)が、免疫力を高めてくれるというわけや。
笑顔を作るということは営業だけやなく、自身の健康と精神の安定のためにもええというのが、これでよく分かる。
そんな専門的なことを知らずとも、明るい表情をしていれば自然に他人から好感を持って貰えるということは誰にでも分かると思う。
営業に、それを活かさな損やわな。どんな形であれ客と接する時には意識的に笑顔を作るようにすれば、相手から好感を持たれる可能性が高まり、それが営業にも好結果を生むと信じて貰いたい。
もっと言えば、笑顔は相手だけやなく、自分自身の気持ちも明るくし、前向きにしてくれる。気持ちが前向きになると、やる気が出るということにもつながる。
もう、ここまで聞けば笑顔を作らな損やということが良う分かったやろうと思う。
笑顔を作る方法と訓練、維持の仕方については『新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第3話 命の笑い』(注3.巻末参考ページ参照)でワシの経験を話しているが、それを参考にするも良し、自分で何か方法を考えるのでも構わない。
要するに、勧誘時には常に意識して「笑顔を絶やさない」ということに留意して貰えればええ。それだけでも、かなり違うはずやから。
2.根気よく回れ
新聞の勧誘営業は客と出会え、肝心の勧誘行為に及べることの方が圧倒的に少ない仕事や。
先に挙げた「笑わない」、「愛想の悪い」勧誘員と思われ、居留守、あるいはインターホン・キックされることが多いというのも、その理由の一つや。
また勧誘する地域で留守宅が多ければ、その分、その家の客と接触する機会も減る。独身者や共稼ぎ世帯の多い家に、そういうのが多い。
そのため、平日の場合、その家の住人が帰って来ると思われる夕方6時以降に活動を開始する勧誘員も少なくない。
ただ、それでも一般的な勧誘終了時間の午後8時までに帰って来なければ、その家の客とは会えないがな。
また、共稼ぎではなく、普段在宅している主婦であっても買い物などの用事で、訪問した時間に、たまたま外出していて会えないこともある。
さらに在宅していても、掃除や洗濯、食事の準備といった家事に追われて、あるいは、昼メロなどのテレビ鑑賞やインターネット、電話をしていてインターホンに気づかない、無視をするということが往々にしてある。
また、運が悪いと、たまたまトイレで便秘と悪戦苦闘をしている最中ということもあるやろうし、浮気中でインターホンに出られないというケースも考えられる。
他にも、その個人の事情によりインターホンに出られないというケースが、かなりあるものと考えておく必要がある。
つまり、留守や居留守の家が相当数あるのが、普通やということや。それにインターホン・キックが加わる。
ワシは、それらのことから玄関口で話せる確率は10軒訪問して、ええとこ1、2軒程度のものやと考えとる。
その1、2軒にしても「新聞屋です」と訪問して出た家の客が現在購読している新聞の集金と勘違いしていることもあるし、宅配便や郵便の配達員と間違えるケースもある。
そんな場合の勧誘は普通では難しいわな。
ただ、数は少なくても1日中、訪問すれば何人かの家人と話せることができるのは確かや。その確率を上げるには根気よく回るしかない。
勧誘経験の少ない人間は、最初の5、6軒回って1軒も出ない、出てもインターホン・キックされ続けると意気消沈して次に行く気力をなくしがちやと聞くが、それはこの仕事の本質が分かっていないからやと思う。
勧誘営業は100軒回って1軒で契約が貰えたら御の字なわけや。例え99軒ダメでも、それは1軒の契約者に辿り着くために必要な課程やったと思えばええ。
当然やが、留守や居留守、インターホン・キックされた場合は、その分多くの家を訪問することができる。契約者と遭遇できる確率が高くなるわけや。
確率論というのは面白いもので、ダメなケースが続けば続くほど、その次に良くなる確率が格段に上がるものなんや。
極端なことを言えば、最初の1軒目は1パーセントにすぎんかった確率が、98番目になれば50パーセントまで上がっているわけやさかいな。
そう考えれることができれば意欲も、それほど削がれることがないのと違うやろうか。
他にも根気よく回れば良い事が起きる可能性がある。それを説明する。
確かに新聞の勧誘営業は断られることの多い仕事やが、すべてやない。
中には、勧誘員が訪れるのを待っている人もいる。
引っ越しをして間もなく、新聞を購読したくて新聞勧誘員を待っているのやが、なかなか会えなかったケース。
現在、購読している新聞が何らかの理由、例えば、「その販売店が何かの事件に関係した」、「新聞に誤報やねつ造記事があった」、「誤配、遅配があって販売店の対応が悪い」、「集金に来なくなった」、「販売店と揉めた」などで嫌になり、新聞を変更したいと思っていたところに、たまたま訪れたというケース。
今までの新聞販売店よりサービスが格段に良く、得をしたと思って貰えるケース。
今までの勧誘員と違い人間的に気に入って貰えたケースなど、挙げたら結構いろいろある。
そんな状態の時に客と出くわせば、ほぼ100パーセントの確率で成約にこぎ着けることができるはずや。
また、同じ地域でも根気よく回っていれば普段、会えない独身者や共稼ぎの人と会えることがある。
勧誘員が滅多に会えない客というのは、客の方でも勧誘員と会うケースが少ない。
その分、いつも勧誘員に訪れられ嫌な思いをして敬遠しているような人とは違い、勧誘員に対して嫌な印象を持っていない場合が多く、その分、話を聞いて貰える確率が高くなる。
勧誘員を続けていると、ごく希にいとも簡単に契約してくれる客と出会うことがあるが、たいていは上記のようなケースや。
そういうケースと遭遇する確率は、当然のことながら根気よく回っている人間の方が圧倒的に多い。
ラッキーは努力の延長線上にあるということやな。
3.自分を売り込め
新聞勧誘員は、新聞を売り込むものやというのは正論やが、実際問題として、その新聞の良さを説いて売り込んでも、あまり効果はない。
多くの人は、新聞がどんなものかくらいは知っているし、どの新聞もそれほど大差ないと考えているさかい、そんな話をしようとしても聞く耳を持つことなど殆どないからや。
本当は新聞各紙には、いろいろ特徴があるのやが、最初の段階で、そこまで説明しても聞いて貰えることなど、まずないしな。
新聞のブランドで売れると勘違いしている新聞社や販売店の人間もいとるようやが、それもない。
なぜなら、その地域で発行されている新聞に無名の新聞などというものは、あり得ないからや。すべての新聞には、それなりのブランドが備わっている。
全国的には無名に近い新聞はあるが、それでもその地域ではシェア・ナンバーワンというケースはいくらでもあるさかいな。
日本最大の発行部数を誇るY新聞は関東地方ではトップクラスのシェアを誇っているかも知れんが、他の地方では5パーセントにも満たない購読率に喘いで三流新聞扱いされているケースはいくらでもある。
敢えて言えば、その地域でシェア・ナンバーワンの新聞が、最もブランド力が高いということかな。
それにしても、そのブランド力だけで新聞が売れるものやないがな。
その地域でシェア・ナンバーワンの新聞は、当然のことながら購読者が多いため勧誘対象にする客が少ない。
新聞勧誘は多くの場合、新聞の乗り換えを頼むもので、その相手が少なければ、その分、その客を見つけることが困難になる。
例え、そんな客を見つけたとしても、その地域でシェア・ナンバーワン以外の新聞を購読している人には、それなりの理由があるのが普通や。
その地域でシェア・ナンバーワンの新聞を嫌っているアンチというケースもあれば、シェアの少ない新聞販売店は、総じてサービスがええのが普通やから、そのサービス品になびいた結果ということもある。
そういった客たちを新聞のブランド力だけで翻意させるのは不可能に近い。
それなら、シェアの少ない新聞の勧誘ならどうかと考えた場合、その地域で人気の高いシェア・ナンバーワンの新聞を購読している読者を切り崩すことは難しい。
人の性質として、多くの人が購読していることで安心するというのがあるからや。せやからこそ、そういった差が歴然と生まれとるわけやしな。
新聞の良さやブランドを利用できんとなれば、考えられるのは勧誘員個人の魅力、能力だけということになる。
そこにこそ、新聞勧誘員としての活路があるとも言える。
ワシは、よく「新聞を売るより、自分を売り込め」と言うてるが、商品説明の殆ど必要のない新聞勧誘の場合は、それしかないと考えとるくらいや。
一言で言えば、「客に気に入って貰える勧誘員になれ」ということやが、そうなるためには、それなりの方法がある。
まず、気に入られるためには、嫌われないことが重要になる。
それには勧誘員の外見が大きく左右する。多くは、服装、スタイルなどの第一印象で判断されて嫌がられる。
嫌われるスタイルとは、ヤクザの着るようなハデな服とか、だらしないと思われる格好などがそうや。
中には洗濯しとるのかと疑うような汚れたヨレヨレの服を着とる者もいとる。身だしなみに気を遣わんような人間は営業員として失格や。
現在は、スーツ姿できちっとした勧誘員の方が大半を占めるが、それでも一部にそういうだらしのない人間が存在するのも事実や。
そういう者は行き詰まって最後には不正行為に走るしかなくなるさかい、絶対に真似したらあかん。
態度や話し方というのも大事になる。営業は、話すことから始めるわけやから、それが嫌われたら、それこそ話にならんわな。
しかし、他の営業員と比べると接客態度の悪い者が多いというのは、残念やが認めんわけにはいかんやろうと思う。
もちろん、中にはちゃんとした者も多いが、営業全体のランクで言うと悪い部類に属する。
営業は、当たり前やが、客がおって初めて成り立つものや。極端なことを言えば「お客様は神様」というくらいの気持ちで接しなあかん、とワシは思う。
ワシらが飯を食うていけるのは、その客から契約が貰えるからやからな。
そう考えれば自然に客に対して接し方、物言いも嫌われんように心がけるはずなんやが、それが分からん人間がおるから困る。
そういう人間のおかげで、他の真面目な拡張員も、それと同列に見られ扱われることになるわけや。
これには、その基本的な営業の心得を教える拡張団である営業会社が少ないのと、昔からの悪しき伝統を引き継いでいるという点にも、その一因がある。
それについては、このメルマガやサイトでも、事ある毎に言及しとることではあるがな。
そもそも、新聞拡張団の起こりは、ヤクザ組織のような連中を勧誘員として新聞社が使い始めたというところにある。
そのヤクザに一般人に対して他の営業員のような態度で接しろというのは酷な話やったかも知れん。
どうしても「契約したれや」という言動になりやすい。それが、70年近くも続いてきたという背景があるから、尚更や。
ここ数年、かなり良くなりつつはあるが、一朝一夕にすべてが変わるものでもない。どうしても、その悪しき伝統が残っとる所も未だにあるさかいな。
拡材の存在も大きい。これには、思い違いをしとる拡張員が多い。思い違いをしとると、第一声から「こんなサービスがおまっせ」と拡材中心の勧誘になりやすい。
そういう勧誘員は「拡材を渡すんやから、契約してくれてもええやないか」という気持ちと態度にどうしてもなる。
例え勧誘員本人は、そのつもりがなく、それと気が付かんでも、客はそう受け取る。客の中にはバカにされた気分になる者もおる。
例えて言えば、魚釣りに似ている。多くの釣り人は、エサ次第で魚が釣れると思う。そう思えば、どういうエサを与えれば釣れるかということだけを必死で考えるようになる。
本当はエサだけで魚が釣れるわけやないんやが、それ以外のことに考えが及ばんのやな。
魚と違うて、人はバカやないから、そんな扱いをされとるということは敏感に感じ取る。「景品なんかは別にいらん」と言う客がそうやと思えばええ。
これには、暗に「バカにするな」という意味合いが含まれとる。そういう客は、当然のように拡材の話だけしかせん勧誘員に嫌悪感を示すことになる。
もっとも、その拡材の景品次第で契約する客がおるのも事実やから、これは止むことのない手法やとは思うがな。
相手次第では有効な営業なのも確かやしな。ただ、いずれにしても、拡材だけの勧誘やと嫌われやすいということや。
自分本位な勧誘員も嫌われる。世の中には、自分中心で物事を考える人間は多い。一般人やったら、それでもええかも知れんが、営業する者がそれやと救いがない。
自分本位な人間とは「せめて話くらい聞けよ」というタイプや。これは、例えそのことを口に出さずとも、その気持ちは必ず相手に伝わる。
どうしても横柄な態度になりやすくなるからな。客と揉め事を起こすのは、間違いなくこのタイプや。
新聞勧誘営業は、勧誘員の一方的な都合で訪問して客の時間を奪うことになる仕事やから、それについて思いやる気持ちがないとあかん。
これは、そう考えるだけで、自然にそういう接客態度になれるはずや。
逆に好かれる勧誘員になるためには、どうすればええかということも話す。
そのために最適なことは、その客にとっての「オンリーワン」になることやと思う。
営業は話すことが重要なウェートを占める。その中で最も有効な手段が雑談をすることやとワシは考えとる。
最初から「新聞を取ってくれ」「契約してくれ」「景品をサービスしまっせ」という勧誘だけやと、例え契約に漕ぎつけたとしても、相手の心を捉えることは難しい。
ただ、1件の契約が、あがっただけのことにしかならんさかいな。その先がない。
営業は、余裕がないとあかん。特に、相手にとっての「オンリーワン」になろうと思うのなら、雑談ができるというのは必修科目と考えるべきや。
常に「客にとってのオンリーワンになるために」を意識すれば、トークも自然に、その客に気に入られるようなものになるはずや。
その気持ちが態度となって表れ、相手の心を動かすことができる。
自分が好きになれる客を探して、重点的に勧誘するというのも方法や。人には、俗に「ウマが合う、合わん」ということがある。
たいていの場合、自分が好きな相手は、向こうも好きになる場合が多い。そういう客を探すわけや。
ウマの合う客となら、雑談で花が咲いた時点で、ほぼ成約に漕ぎつけることができるやろうと思う。長期購読者や難しい客が落ちるケースというのが、たいていこれや。
できる限り、客をおだてる。こう言うと営業することが卑屈なように感じるかも知れんが、これは、重要なテクニックやと割り切らんとあかん。
人をおだてることのできん人間に営業は向かん。そう思うて間違いない。
おだてられて悪い気のする人間はおらんと言うてもええ。ただ、そのおだての仕方を誤ると、見え透いたお世辞ということになり、人により却って反感を買うこともあるがな。
そういう、一見、おだてに乗りそうでない人間でも、さりげなくポイントで「さすがに良くご存じで」、「ご主人の考え方は勉強になります」、「私は人をおだてるのは苦手なんですが、その点、ご主人は……」という感じで言えばそれなりに効果的やと思う。
しかし、普通は、簡単なおだてでも人は弱い。そして、人は自分のことを褒めてくれる人間に対して好意を持つという習性のようなものがある。せやから、客を褒めて損することは、まずないと考えといた方がええ。
これは、そう意識しとるだけで結構、そのおだての文句も出てくると思う。営業でできると言われとる人間は、例外なくこの「おだて」や「よいしょ」の上手い者やさかいな。
頼りになって役に立つ人間だと思わせるというのも方法や。
ワシの場合は、建築屋の経験があるから、簡単な大工仕事ならできる。ちょっとした家の修理をすれば、重宝がられることもある。
また、その知識を生かしたアドバイスもする。あるいは、ワシは交渉事のプロを自認しとるから、簡単な対人関係の悩み事なら、その助言をさりげなくすることがある。
それで、便利で頼りになる人間と思われることがある。
誰でも、拡張員をする前は、何かのプロやったはずやから、特技の一つや二つは何かしらあるはずや。
例え、それが、仕事以外のパチンコのようなものでもええ。
むしろ、こういう話の方が乗ってきやすい人も多いから有利やと思う。拡張員がパチンコのプロ顔負けの腕やと自慢しても嘘臭く思われんしな。
相手次第で、どんな経験も役立つはずや。その発揮どころを間違えんかったらやけどな。
これはという客には、あきらめずに通い、気長に付き合うのも手や。
中には、いくら気に入って貰えても、すぐに成約とまではいかん場合があるさかいな。
特に長期購読者の場合は、単にその新聞に慣れとるというだけやなしに、付き合い上のしがらみというのも結構ある。
親の代からその販売店と家族ぐるみの付き合いをしとるというようなケースやな。
普通は、こういう場合は、無理せずあきらめた方がええ場合が多い。落とせる確率はやはり低いからな。時間を取られるだけ無駄や。
ワシも、たいていはそう考えるし、そのようにアドバイスすることも多い。
しかし、中には、通うて良かったと思える場合もある。それは、その客がアパート、マンションの経営者や町内の顔利きやったりする場合や。
普通は、どんなに苦労しようが、簡単であろうが、1つの契約は1つにしかすぎん。それ以上にはならんもんやが、アパート、マンションの経営者や町内の顔利きのような人間の場合は違う。
そこから、次に拡がることがある。アパート、マンションの経営者なら、その住居人で、町内の顔利きなら、その町内の紹介客が見込めるといった具合や。
ただ、その客がそうなるかどうかの見極めが難しいのは確かや。それでも、そういうことがあると知っておくのは損ではないと思う。
自分を売り込むことに成功すれば「あんたやから契約するんやで」と言うて貰える時が必ずくる。これは営業員として最高の成果やと、ワシは思う。
4.相手を知れ
自分を売り込むことだけに神経が行ってもあかん。客のことも良う考えとく必要がある。
営業に熱が入れば入るほど、つい、自分本位になりやすいもんや。それで、手痛い思いをしたことのある営業マンは多いのと違うかな。
そうは言うても相手を知る、相手の立場で考えるというのは、言うほど簡単なことやない。
どうしても、人間は自分のこれまでの経験や環境で物事を考えてしまう。相手の人間は、自分とは違う生き方をして来たということを理解するのは難しい。
人は自分が正しいと思うことは、相手も正しいと思うと考えがちやさかいな。
相手と意見が違えば、つい、こちらの考えの方がいいですよ、と相手を誘導したくなるが、それでは営業はあかん。
逆に考えれば良う分かる。あんたは、自分の意見を否定されて、答えを誘導しようとしている営業マンから何かを買う気になれるやろうか。答えはノーやわな。
この相手の立場や相手のことを考えるというのは、ある程度の訓練で、誰でもその考えに近づけると思う。
ワシの自己流の考え方やから、ええなと思う者だけ取り入れてくれたらええ。
一つの物事には、常に二面性、多面性が存在する。
ワシは、その説明する時、コーヒーカップを例にとることが多い。
コーヒーカップは、コーヒーを飲むための器にすぎん。ワシはコーヒーが美味く飲めるコーヒーカップなら別に文句はない。
しかし、中には、そのコーヒーカップの好き嫌いで行く喫茶店を決めるという人もいる。カップにより旨い不味いがあると言う人もいとる。
喫茶店の店主の場合は、どうか。コーヒーカップは大事な商売道具や。その選択に金をかけて誇りを持つ店主もおれば、経費主体で見栄えが良ければ、別に安物でもええという店主もおる。
コーヒーカップを製造している業者はどうか。コーヒーカップが、売れなどうにもならん。売るため、売れるためにはどうしたらええか、常に必死で考えている。
ここで、すでにコーヒーを飲む者、利用する者や作る者とで大きな違いが生じていることを考えて欲しい。
コーヒーを飲むワシには、ただの器やけど、利用している者や作っている者にしたら、メシの種や。
せやけど、目の前にあるコーヒーカップはコーヒーカップにすぎん。それを見る者によって、その必要性や重要度が違うだけのことや。同じコーヒーカップなんやが、全く違う物に見えてしまうわけや。
そして、それはどちらが正しいかということとは違う。どちらも、間違った考え方やないし、どちらも正しい。
これが、二面性であり、多面性やと思う。相手を知るということは、この考え方を知るということやないかと、ワシは思う。
考え方が、人によって違うのは当然やと認めることが、相手を理解する第一歩やないかと。
この考え方の訓練は、もう分かったと思うが、何でもええから、常にこれは使う者、作る者、売る者という具合に立場によってどういう見方ができるのか、値打ちがあるのかということを、日頃から考える癖をつけることや。
身の回りのものすべてが、その訓練の道具になるはずや。それを続けとれば自然と相手の立場が分かり、相手のことも見えてくる。
本当の意味で相手の立場に立った見方になるということやとワシは思う。
5、挨拶の大切さを知れ
営業の仕事は言わずと知れた、人が直接接して物を売る、あるいは契約を取る仕事や。人と人との関わりは挨拶で始まる。もちろん、営業の現場においてもそれは同じや。
しかし、実際に新聞勧誘営業の現場で、その挨拶をちゃんとしている者がどれだけいるのかとなると、途端に怪しくなる。
はっきり言うが、新聞勧誘営業の基本は挨拶から始まると言うてもええくらい大切なものや。
「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」「はじめまして」「ごぶさたしてます」などは殆どの人が日常、常識的に使っている挨拶の言葉である。
さすがに、それを知らんと言う人には会ったことはないが、その挨拶を心がけて使うとる新聞勧誘員が少ないということに驚かされる。
どういう場面で、それらの挨拶を、どのように使うたらええのか分からんと言う。
信じられんが、その事実を知ったために、言うまでもなく当たり前のことやと思いつつ「挨拶」を『新聞勧誘営業の基本的な考え方』の項目の一つとして取り上げることにしたわけや。
ワシは、拡張員として20年余り、その前に建築屋の営業マンとして20年、計40年ほどの営業経験がある。
その間、ただの1日も営業の現場で客に対して挨拶をせえへんかった日はない。
拡張団に限らず、どこの営業会社でも、この挨拶にはうるさい。朝、出勤したら必ず、挨拶を交わすことが当たり前とされとる。
「おはようございます」の声も大きく言うように強要しとる所も多い。特に、上司や先輩に挨拶せえへんかったら大変や。それを怠ると厳しく叱責されることも多い。
営業会社がなぜそれだけ挨拶にうるさいのかとういうのは、当然のことながら理由がある。
一つには、社内の空気を引き締めるためやが、他にも営業員に挨拶の重要性を認識させる狙いがある。
もちろん、ちゃんとした挨拶をしている営業員がいとるのは知っとるが、残念ながら客側からの指摘がある以上、それができていないとして話すしかない。
ワシが実際にやっていることを例に取る。
ワシはバンク(新聞販売店の営業エリア、単に新聞販売店そのものを指して言う場合もある)に着いて解散したら、当然のように営業モードに入る。
訪問する客は当たり前として、道ですれ違った人に対してでも「こんにちは……ですね」と声をかけられる状態なら、必ずそうしている。
「……」の部分は気候に関することが多い。
「こんにちは、寒いですね」「こんにちは、暑いですね」といった具合や。
道でこんな風に声をかけられたら「本当ですね」と殆どの人が挨拶を返してくれる。
見ず知らずの人でも、近所の知り合いかなんかと勘違いするんやな。これを長く続けとるとプラスになることはあっても、マイナスになることはない。
何度か同じ人とそういう挨拶を交わしていると本当に知り合いになることもある。
この何度も会うということについては限られた範囲で営業するわけやから、同じ人に出会すことも、それほど珍しくはないと思う。
それを繰り返していると、希に訪問した家の中からその人が玄関口に出てくることがある。
新聞を断ろうと思うてた人でも、普段から、そういう関係があれば、話くらい聞く気になるし、悪い印象もないはずやから勧誘もしやすくなる。
よく「話も聞いてくれん」と嘆く勧誘員が多いが、どんな感じて客に声をかけとるのやろうかと思う。
まさか、何の前置きもなしに、いきなり「○○新聞ですけど」と言うてるのやないやろうな。
第一声は必ず、挨拶言葉やないとあかん。これは、どんな営業にも共通して言えることや。そんなに難しいことやない。
「こんにちは(こんばんは)、ごめんください」といった挨拶が先にあれば、客の方でもちゃんとした人間が来たなと思う。
話くらいやったら聞いてもええかなと考えるかも知れん。100パーセントやないにしても、その確率は上がるはずや。
それに、常にそういう挨拶をする癖をつけるとると、営業トークも自然に相手に受け入れられやすい語り口になるものなんや。
話を聞いて貰えんから仕事にならんと嘆く前に、聞いて貰える下地を作らなあかん。そのためには、どこでも誰にでも挨拶することを心がけることやとワシは思う。
以上や。
『新聞勧誘営業の基本的な考え方』としては、大まかに上記のことを心がけて貰えれば、まず大丈夫やろうと思う。
その他にも基本的なことは幾つもあるが、それは、これから、このシリーズの中で詳しく話していくつもりにしている。
参考ページ
注1.第79回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■『特定商取引に関する法律』改正法は業界にとってのチャンスになる?
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-79.html
注2.第286回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞購読契約ガイドライン決定……今後のQ&Aでの影響について
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-286.html
注3.新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第3話 命の笑い
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage8-3.html
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