メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第427回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日  2016. 8.12


■新聞の実情 その11 新聞斜陽化の実態について


『新聞に衰退はあり得ない』、『新聞が消滅することなどけっしてない』と、長きに渡って業界関係者の間ではそう信じられてきた。

太陽が西から昇らないのと同じく、新聞が廃(すた)れるような時代が訪れることなど絶対にあり得ないと。

確かに2000年頃までは、そんなことを言うても誰も笑う者はいなかった。そうやろうなと一般の人たちも、それに対して疑いの目を持つ人は少なかった。

何しろ、その頃は新聞普及率96%を超え、発行部数5千4百万部もあった時代やったからな。

一家に1紙は当たり前で、複数の新聞を購読している家も、それほど珍しくはなかった。

会社や職場に行けば、たいていの所には新聞が普通に置いてあった。喫茶店などの飲食店、役所や銀行、ホテル、病院などの待合室では複数紙の新聞が読めた。


通勤電車の中で新聞を読んでいる光景は日常で、その新聞銘柄に優越感を持つ者すらいた。

経済新聞を読む者はエリート。5大紙と呼ばれる全国紙を読んでいるのは庶民。スポーツ紙や夕刊紙(タブロイド紙)を手にしているのは、さらにその下の庶民といった風に見られていた。

その頃は街のどこに行っても新聞で溢れていた。新聞を目にしない日はないと言うても過言やなかったほどに。

テレビやラジオで流れるニュースは新聞に載っているものに限られていた。

新聞に掲載している事件や事実だけが社会で承認され、そうでないもの、例えば週刊誌に載っている記事などは「ゴシップ記事」と呼ばれ胡散臭くさえ思われていた。当然のように信用度も低い。

その頃から、ネットも普及し始めてはいたが、利用頻度の低さと環境の稚拙さから、信用度という点では新聞と比べるべくもなかった。

事ほどさように、世の中は新聞を中心に廻っていた。新聞業界関係者たちにとっては、間違いなくこの世の謳歌を満喫していたわけや。

古き良き時代やったと言う人も多い。

しかし、何事においても永遠に続く隆盛などというものはあり得ない。

命あるものは死に、形あるものは必ず壊れる。それが万物共通の宿命や。

永遠に続くものなど、この世には何もないというくらいの事は誰にでも分かっている。

分かってはいるが、その中にいると、そうとは認められん。認めたくないという心理が働く。

ワシも、いずれは新聞が衰退する刻を迎えるのは避けられんと考えていた一人ではあるが、その現実を突きつけられると、やはり、やり切れん思いになる。

しかも、新聞が衰退するスピードはワシの予想をはるかに超えて早い。早すぎる。

今から10年前の2006年7月7日発行の旧メルマガ『第100回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞の未来』(注1.巻末参考ページ参照)の中で、


ワシも、紙としての媒体である新聞は、いずれ終焉を迎える日が来ると、常に言うてる。

但し、それは、かなり先の話や。早くても20年後くらいやないかな。

それも単にペーパーレス化が進むということで、新聞そのものが消滅するという意味やない。

新聞は、これからも情報媒体としては生き残ると思う。なぜなら、新聞そのものから得られる情報を必要としとる人間の方が圧倒的に多いと思うからや。


と言うたことがある。

その時から10年後の今、予想は、ほぼ的中しつつある。というより、現実は、もっと厳しくなっている。

当時言うてた『新聞が終焉を迎える日』が『早くても20年後くらい』というのは、もしかすると、もっと早まるかも知れん。

それには新聞の斜陽化を示唆する事実が、あまりにも多く存在し、衰退は避けられんところまで来てしまっているからや。

なぜ、そんなことになってしまったのか。

インターネット環境の充実による新聞の地位低下。長引く不況。少子高齢化による人口の減少傾向。相次ぐ新聞社の不祥事による信用の失墜。

広告媒体価値の低下による新聞紙面、および折り込みチラシの激減。悪質な新聞勧誘や押し紙体質、記者クラブに代表される新聞体質など数え上げたらキリがないほど、その理由は多い。

それらの要因が、複合的に折り重なった結果、2000年以降、新聞業界が公式に発表しているだけで、実に1千万部以上もの部数減が生じている。

その内訳を、ざっと言う。

まず、5大紙と呼ばれる全国紙からや。部数トップのY新聞は、2000年当時、1022万部あった発行部数が、2016年の現在では900部を割り込むとと言われている。Y新聞だけで122万部の減少になっている。

業界2位のA新聞になると、2000年当時、832万部あったものが約670万部の実に162万部という業界最高の部数減に陥っている。

これは2014年の『第328回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■報道のあり方 その7 吉田証言、吉田調書に見る誤報報道の真実とは』(注2.巻末参考ページ参照)で話した誤報スキャンダルが大きく影響しているためやと思われる。

M新聞では400万部が322万部の78万部の部数減になっている。M新聞も2008年『第8回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■MDN醜聞の波紋』(注3.巻末参考ページ参照)での不祥事があったが、その後の企業努力が功を奏し、いくらか持ち直している。回復したとまでは言えんが。

S新聞は、200万部から159万部へ41万部の減少。このS新聞にはA新聞やM新聞ほどの大きな不祥事もなく、あからさまな現自民党政権の応援新聞やから部数減に陥る要素は見受けられないが、それでも部数減の比率はA新聞やM新聞とほぼ同じという数字が出ている。

最後のN経新聞は、305万部から273万部の32万部の減少に止まっている。

ただ、N経新聞は新聞社で唯一、電子版に成功し、その部数分程度は確保していると言われているさかい、結果的には現状維持していると見てええやろうと思う。

当時からワシは生き残る新聞があるとしたらN経新聞くらいのもんやと言い続けてきたが、実際にもそのとおりになったと言える。

もっとも、N経新聞は自前の販売店が少なく販売網が貧弱なため、他の全国紙や地方紙の販売店に販売と配達を依頼するしかないという事情がある。

そのため他紙の部数減に伴い販売店が少なくなると予想される現状では、この先、今の状態がいつまで維持されるかは不透明やけどな。

全国紙以外のブロック紙、地方紙になると100社以上も存在するさかい、その一つずつを検証するわけにもいかんので、まとめて話す。

2000年当時、ブロック紙、地方紙の合計は2,641万部やったものが、2016年には2,206万部にまで減少している。実に565万部になる計算や。

全国紙は2,759万部から2,324万部への435万部の部数減やから、割合的にはブロック紙、地方紙の方が減少幅は大きいということになる。

新聞の部数減を取り上げる場合、全国紙に、どうしても目が行きやすいが、実はブロック紙、地方紙の方が、事はより深刻やというのが、これで分かるやろうと思う。

全国紙は約15.8%でブロック紙、地方紙では約16.5%ということになるさかいな。

ただ、全国紙には「押し紙」に代表される余剰紙の割合が、ブロック紙、地方紙に比べて比較にならんほど多いと言われているので、販売実数という点では何とも言えんがな。

以前、新聞の衰退の要因には、部数減以上に根の深いものが潜んでいたと言うたことがある。

ワシは、事ある毎に口酸っぱく「どんな状況になっても必ず手はある」と言うてきた。

事実、ワシ自身、どんなに危機的な状況であってもプラスに転嫁する方法はいくらでもあると信じている。その思いに今も揺らぎはない。

揺らぎはないが、肝心の当事者たちがそれに向けて「何とかしよう」という意欲を持って事に当たらん限り、いくらそれを説いたところで、「馬の耳に念仏」、「馬耳東風」、「犬に論語」、「牛に経文」ということにしかならん。言うだけ無駄や。

ハカセが長年に渡って調べ、得た情報から、その原因は実は「新聞」そのものにあったという結論に達したという。

「何やそれ?」

最初にその話を聞いたときの、ワシの正直な感想であり疑問やった。

「新聞」が原因で「新聞」が廃(すた)れるやなんて、そんなアホな話があるかと。

「正確に言えば、巨大化していった新聞社そのものに原因が内包していたということです」と、ハカセ。

それはちょうど、太古の地球で巨大化した恐竜が環境の激変に耐えきれず絶滅したように、自身の身体の大きさを持て余したのと同じ結果を新聞も招きつつあるのやと。

恐竜が絶滅した原因として、約6500万年前、メキシコ湾とカリブ海との間に位置するユカタン半島付近に直径10キロくらいの巨大隕石が落下したというのが最も有力な説とされている。

それが原因で地球の環境が急激に変わり、その影響を巨大生物である恐竜がモロに受けたと。

急激な「インターネットの台頭」や「世界規模の大不況」が、新聞にとっては、その巨大隕石に相当しとるのやないかと、ハカセは言う。

新聞社だけに限らず、これまで巨大企業と言われてきた、電気業界、自動車業界、百貨店業界、建築業界、鉄鋼業界などでも衰退の一途を辿っとるという厳然たる事実にも同じようなことが言えると。

つい10年ほど前までは誰もが、それらの大企業が凋落(ちょうらく)することなど予想だにせんかった。

「飛ぶ鳥を落とす」とまで形容されていたほどの隆盛を誇っていた企業ばかりや。

それが、ここ数年で一変した。

実際にそれらの業界では、倒産、規模の縮小、業界再編などを繰り返すという厳しい状況に陥っている。

今や、明日、どんな大企業が倒産の憂き目を見たとしても、それほど驚くに値しないと思われるほどに、事は深刻さを増している。

その理由の多くは、実はそれらの巨大化した故の企業そのものにあったと、ハカセは考えとるという。

新聞もその例外ではなかったと。

現在、有力巨大紙と呼ばれる新聞社は、全国紙5紙とブロック紙3紙、および地方紙の有力数紙程度と言われている。

その線引きをどこでするのかという問題はあるが、最低でも数十万部以上の部数を確保していて、それなりの自社ビルを持っているのがその条件ということになる。

ただ、それはここ数十年の間にそうなっただけで、新聞の歴史そのものから言えばそれほど古い出来事ということでもない。

旧メルマガ『第50回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員事情の昔と今』(注4.巻末参考ページ参照)の中でも言うてるが、終戦後の昭和20年(1945年)、今から65年前の新聞の総部数発行は1400万部ほどで、現在の約3分の1程度やった。

その後、昭和27年には新聞の総部数は2200万部に増え、昭和40年頃には3000万部、昭和50年過ぎで4000万部、昭和60年前後に至っては5000万部と順調な伸びを見せた。

もっとも、昭和60年前後の約25年前がそのピークで、その頃までに、その巨大不沈艦『新聞』ができたわけや。

それには日本全体が高度成長の波に乗っていたということもあるが、ワシら拡張員の存在も大きかったと思う。

どんな時代でも新聞は売り込まん限り売れるもんやないという厳然たる事実があるさかいな。

もっとも、新聞が、その「日本全体の高度成長の波」を煽る報道をした結果というのもまた事実やから、その意味での功績も大きいというのは認めるがな。

拡張員が新聞を売りやすい土壌を作ったという点において。事実、その頃が拡張員の黄金期やったという。

その後、新聞の伸びにかげりが見え始め、現在に至っているということや。現在の状況は今後も続き、今のところ歯止めがかかりそうにない。

いずれにしても、新聞各社は日本の高度成長期と共に大幅に巨大化していったのは間違いない。

実は、この日本の高度成長期と景気の波の振幅が、それらの新聞社に大きな影響を与えてきたという側面がある。

その影響がええように出れば問題はなかったのやが、巨大化した企業の多くがそうであるように大いなる勘違いを生む結果になった。

人は自分の立場や地位が上がる毎に自身の値打ちが上がったと錯覚しやすいということがある。

中小企業より大企業、一般社員よりも課長や部長という幹部社員の方が上やと誰でも考える。

その所属する企業に力が増すことで、それが自身の実力やと錯覚する。その最たる錯覚に陥っていたのが新聞社やったとハカセは言う。

現在、ハカセは、細部に渡りもっと深く調べている最中なので、この新聞の衰退、凋落の深刻度が、どの程度のものなのかを、あらゆる角度から今後も伝えていきたいと思う。

何事も実態を知るな対処のしようがないさかいな。

今回は、先の見えない不安要素ばかりに終始したが、どんな状況であれ必ず方法はあると、ここでもう一度念を押しておく。



参考ページ

注1.第100回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞の未来』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-100.html

注2.第328回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■報道のあり方 その7 吉田証言、吉田調書に見る誤報報道の真実とは』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-328.html

注3.第8回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■MDN醜聞の波紋』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-8.html

注4.第50回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員事情の昔と今』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-50.html


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