メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第390回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2015.11.27


■新聞販売店物語 その18 独立すべきか否かで悩む店長の話


ある新聞販売店で店長をしているダイスケは悩んでいた。

ダイスケが、その新聞販売店で働き始めて十数年になる。当初から所長になるという目標を持っていた。そのため身を粉にして働いた。

長年の頑張りが実を結び、いよいよ所長になれそうな雰囲気になってきたところで、ダイスケに迷いが生じるようになった。

現在の状況では所長になって、やっていける自信が持てなくなった。理由はいろいろある。

1.自分が経営しようとしている店が1千部未満の小規模販売店であること。

2.最近の不景気による折込チラシの減少や読者の高齢化、若年層の無読化による実配部数の減少傾向に歯止めがかからないこと。

3.新聞業界の先行きの暗さ、将来性の無さに不安を覚える。

4.代償金の高額化により多額の借金しなければ始められないこと。

細かいことを言えば他にもいろいろあるが、大きく分けて以上のことから所長になるメリットよりもデメリットの方が大きいのやないかと考えるようになった。

やると決めた以上は1、2年であかんかったから辞めるというわけにはいかない。情けない、格好悪いということもあるが、残るのは借金だけになってしまうからや。

実際、何千万円単位の借金を苦に喘いでいる他所の所長もいる。あんな風にはなりたくない。

まだ若いダイスケは20年から30年後の事まで考えないといけないという思いが強い。

将来的に実配部数やチラシの折込枚数が増えてなあかんが、現状では、それは望み薄い。

また、身体が資本のこの仕事、自分自身の体調やメンタル面への不安もある。いつまでも健康でいられるという保障はない。病気にでもなれば、そこですべてが終わる。

本社の担当員や所長からはゴーサインが出ているが、どうしても一歩が踏み出せないまま今に至っている。

実は現在、他の仕事、転職することも模索している。また、いっそのこと新聞販売店の経営はあきらめて、店長のままで、しばらく様子を見ようかとも考えている。

というのは所長になるか、どうかで悩んでいると、どうしてもストレスが溜まりやすくなり、それがついつい家族に向かい暴力という形で表れたことがあったからや。

今のところ妻や子供たちは我慢してくれているが、いつまでも、こんな状況を続けたくない。

「借金を背負い、家族に暴力を振るってまで続けたい仕事って何なんだろうか?」ということを考えた時、堪らない気持ちになる。

所長になれば責任が重大になり、よりストレスを溜め込むのではないだろうかと考えると気が重くて仕方ないとダイスケは言う。

しかし、長年の夢が目の前に届く状況になっているのに、それをあきらめるのも辛いという思いもある。やり方次第では上手くやっていけるのではないかと考えている。

ダイスケは、その思いをワシらに知らせ、意見を求めてきた。どうしたら良いのかと。

ダイスケの事情は、もっと詳細に聞いているが、それを話すと個人が特定されかねんので、ここまでの範囲で答えることにする。

それには、このダイスケのような悩みを持っている業界関係者の方が他にもおられるからや。その人たちのためにもなればという思いがある。

それでは、ワシの回答を話す。


回答者 ゲン


あんたの話を聞く限り、独立するか、そのまま店長を続けるか、他の仕事を探すかで迷っておられるのは分かるが、それについてのは、ご自分の意思で決めて頂くしかないと初めに言うとく。

ワシらはアドバイスや助言を求められたら、それに答えるのはやぶさかではない。よりベストな回答をしようと考えとる。

しかし、あくまでもワシらは他人やから、あんたの人生やあんたのご家族に対して責任は持てん。悪いが。

今回の質問は、それくらい重い。気軽に、こうしたらええでと言えるようなもんやないと思うとる。

ただ、責任は負えんが、参考意見としてのアドバイス、助言ということで良ければさせて頂く。

他人の意見で気がつくこともあるし、心の負担が軽減されるということもあるさかいな。

物事を決断する時、いろいろな不安に襲われるのは仕方がない。迷って当然や。

アドバイスする立場からすると、気の向かない選択なら「止めておいた方がええ」と言うとくのが最も無難な答えやと思う。

しかも、あんたの場合は不安に思われている事が多すぎるさかい、よけいや。

まず、『1.自分が経営しようとしている店が1千部未満の小規模販売店であること』ということやが、それで、どの程度の収入が見込めるかの予想はつくわな。

それにかかる経費も予測できるはずや。経営は収入と経費のバランスが良うないとあかんが、あんたの話からは「悪い」としか受け取れん。

『2.最近の不景気による折込チラシの減少や読者の高齢化、若年層の無読化による実配部数の減少傾向に歯止めがかからないこと』というのも、今のままの状態が今後も続く可能性が高いと思う。

特に新聞販売店を経営する上で考えなあかん重要な要素になる『折込チラシの減少』というのも全国的な傾向で、ここ10年ほど、ほぼ毎年のように減少し続けている。

景気が爆発的な回復を見せん限り、以前のような状態に戻るのは難しいやろうと思う。

『読者の高齢化』というのも、ある新聞販売店が調べたところによると、約7割の読者が60歳以上の高齢者やったということや。

その後、サイトに寄せられてくる情報からも、ほぼそれに近い状態やと推測される。一度、あんたが経営される予定の販売店についても調べてみられたら、どうかな。

新聞を愛読される方は、昔から「新聞を読むのは当たり前」という社会状況の中で育ってきた人たちで高齢者が多い。当然のことながら、その人たちは年々歳を取っていく。

その意味では、『読者の高齢化』がさらに進むのは間違いないと思う。そして、高齢者ほど死亡率は高いさかい、その分、確実に部数が減る。

『若年層の無読化』というのも、昔は新聞を読んでいると「知識人」、「インテリ」として見られていたが、今は「格好が悪い」、「ダサイ」と若い人たちは考えているようや。

また、ネットで新聞記事が無料で読めるのに、何で金を払ってまで購読する必要があるのかという若い人たちも増えている。

それらのことが影響して、ここ10年の間に新聞の発行部数は500万部近く減少しているわけや。約1割。これは大変な数字やと思う。

正直、ワシもこのままやと新聞業界は衰退の一途を辿ると見ている。

ただ、逆転の見込みがまったくないわけやない。実際、この状況下でも部数を増やし、利益を上げている新聞販売店も多いしな。

そのヒントになる話として『第65回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ある新聞販売店の取り組み その1 哀しき孤独死をなくせ』(注1.巻末参考ページ参照)、

『第301回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞復活への試み……その1 マラソンドリルとシニアサポートについて』(注2.巻末参考ページ参照)などがある。

特に「シニアサポート」などは『読者の高齢化』を逆手に取ったやり方や。

しかもその方法は、その高齢者のお子さんたちである現役世代にも喜ばれているから、高齢者の息子さんたちにも普及するかも知れん。

実際、それで効果があったと見られる報道が、今年の1月にあった。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150109-00000006-at_s-l22 より引用

たまった新聞、異変察知 焼津の配達員、高齢者救助


 焼津市内で今月初め、新聞配達員が配達先民家の異変を察知し、倒れていた80代男性の発見、救助に貢献していたことが8日までに分かった。郵便受けのたまった新聞に気付き迅速に通報した。

 配達員は同市栄町の長倉新聞店(丸山清造社長)に勤める幸田清太郎さん(同市中新田)。4日朝、新聞配達に回った男性宅で、休刊日の2日を挟んで元日と3日の朝刊が手つかずで残っているのを見つけた。玄関は施錠されたまま。

 男性が一人暮らしと知っていたため、「何かあったのでは」と顔なじみの地元の民生委員に連絡した。知らせで焼津署員も駆け付けたところ、男性はほとんど意識が無く、すぐに救急搬送されたという。

 同新聞店は2010年、高齢者世帯の見守りを強化する「高齢者あんしんサポート」の協定を市と締結している。民生委員からも不審を感じた際は連絡するよう依頼されていた幸田さん。

「『ひょっとしたら』と思って行動した。男性が助かって本当に良かった」と振り返った。


というものや。

こういうシステムが確立されれば、現役世代の人間も、いずれ歳を取って高齢者になるわけやから、その時の保険の意味で新聞を購読しようという気になるのやないやろうか。

そうなると、いつの時代にも高齢者たちが新聞読者の主たるお客になるかも知れん。

『若年層の無読化』というのも、今の若い世代に新聞が浸透していなかったことが大きいと思う。学生時代、それほど新聞に慣れ親しむこともなければ読むこともなかったやろうしな。

しかし、2011年からそうではなくなった。新聞が小中学校の社会科の教材として使われ始めているさかいな。

『第110回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞購読へのススメ その1 新聞を読むことで向上する学力について』(注3.巻末参考ページ参照)でその話をしている。

その一部を抜粋する。


文部科学省が、小中学校の最高学年(小学6年生、中学3年生)を対象とした全国学力テストを毎年、4月の第4火曜日に実施しているが、その際、ある興味深いアンケートを一緒に集めているという。

そのアンケートの中に「新聞やテレビなどのニュースに関心がありますか?」という設問がある。

そのアンケートで、「関心がある」と答えた生徒と「関心がない」と答えた生徒では、ほぼすべてのテストの平均点が、15点から20点ほども違うという結果が出ているという。

もちろん、「関心がある」と答えた生徒の方が上や。

その一例として、小学6年生の場合、新聞を読む回数が「ほとんどない」と答えた生徒の「国語B」平均点が37点に対して、「週に数回読む」と答えた生徒の平均点は56点やったという調査結果がある。

そして、これはPISA(学習到達度調査)で得られた結果とも、ほぼ一致するという。

世界的に見て、新聞をよく読む子供ほど成績がええという結果になっているのは間違いない。

ただ、せやからと言うて、「新聞を読むから学力が高い」と一概に決めつけられんとは思う。

なぜなら、学力の高い子ほど知的好奇心が高く、その結果として「学力の高い子供は新聞を読む」とも言えるさかいな。

ワシとすれば、新聞を読むから賢くなるのやと言いたいのやが、その科学的裏付けがない以上は、そうと決めつけるわけにもいかん。

しかし、新聞の購読率の減少に伴って、子供の学力が低下しとるのだけは確かで、これを単なる偶然の一致と片付けることもできんやろうと思う。

日本の場合、読解力においては、2000年の8位から、2003年14位、2006年15位という結果で止まっているが、日本よりも新聞の購読率の減少が著しいアメリカの場合やと、2000年15位、2003年18位になっていて、2006年は「記録なし」という事態にまでなっているという。

日本では、現在、若い世代での新聞離れというのが、業界での深刻な問題になっとるが、これは業界だけでなく、日本の未来にとっても由々しき大問題になりかねんことやと思う。

なぜなら、その若い世代が結婚して家庭を持つようになっても、その新聞離れした生活が変わるとも思えんさかい、相変わらずの「無読」に徹するものと考えられる。

そうなると、当然のことながら、その子供たちも新聞を読む機会がなくなる。新聞を読む機会が減れば、さらなる学力低下は避けられんということになる。

果てしのない悪循環が繰り返され、いずれ日本の国力そのものが低下しかねないとも限らない。

しかし、ここにきて、それが救われる可能性が、僅かながら生まれている。

2011年から施行される小中学校の新学習指導要領というのが、それや。

ただ、これについては以前の「詰め込み教育」に戻すとも言えんから、「ゆとりでも詰め込みでもなく、知識、道徳、体力のバランスとれた力である生きる力の育成を実現」するという、何とも苦しいスローガンではあるがな。

要するに、今までより勉強の科目、時間を増やそうというものや。

その中に、「新聞を教材にした授業」が導入されているわけや。

もっとも、一部の学校では、すでに20年以上も前からNIE(Newspaper in Education)で実際に、その新聞を使った授業が導入されとる地域もあるがな。

NIE(Newspaper in Education)とは、日本新聞教育文化財団が押し進めているもので、2010年度のNIE実践指定校は全国47都道府県で533校に上っているという。

尚、これには大学は含まれていない。大学では、それ以前から「新聞」を教材に使っている教授や講師も多く、その数は把握できていないからや。

余談やが、ワシら拡張員は、その大学生相手に「教材で当社の新聞が使われているから購読しないと損ですよ」、「企業の就職試験でも新聞紙面から問題が出されるケースもありますよ」というトークを使って勧誘しとるさかいな。

いずれにしても、教育現場では、それなりに認知度も高く、効果も上がっていると聞く。

それを文部科学省が新学習指導要領で、社会科系の授業で週一程度の範囲で「義務化」しているわけや。

新聞を教材に使って教えるというのは、新聞離れしている子供たちにとっても、業界にとっても、ええことやと考える。


このことが、新聞離れをくい止める要因になるかも知れん。

またその3年後に話した、『第269回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞購読へのススメ その2 新聞の無読者は人生の敗北者になる?』(注4.巻末参考ページ参照)の中で、


今や「新聞を読む」という行為そのものが、「かっこ悪い」と思われている。

このままでは新聞の将来がなさそうに見えるが、果たして、そうなのかと別の情報に接して疑問が湧いてきた。

新聞を読むことが、ダサくて格好悪いと考えている人たちこそ、実は非常に危険な状況に置かれているのやないかと感じたからや。

その報道や。


http://news.goo.ne.jp/article/mycom/life/mycom_833409.html  より引用


紙の方がディスプレイよりも深い理解ができる -トッパン・フォームズが確認


トッパン・フォームズは7月23日、ダイレクトメール(DM)に関する脳科学実験を実施した結果、同じ情報であっても紙媒体(反射光)とディスプレイ(透過光)で、脳がまったく異なる反応を示すことを確認したと発表した。

同成果は、同社とニューロ・テクニカの共同研究として、国際医療福祉大学の中川雅文教授(医学博士)の監修のもと得られたもの。

詳細は、同社が7月24日〜25日に名古屋で開催するプライベートショー「IDEA PREVIEW 2013 「伝えること」「伝わること」トッパンフォームズの情報ソリューション」の中で、紹介されるほか、関連セミナーにて実験結果の一部が紹介される予定だという。

今回の実験は、ヒトがDMに接した時に、脳のどの部位が反応しているのかを、近赤外分光法(NIRS:near-infrared spectroscopy)が利用できる「近赤外光イメージング装置」を用いて測定する形で行われた。

同法は個体差がないシンプルな生理学的反応から、少ない被験者数(今回は6名)でも安定した結果を導き出すことが可能であり、今回の実験からは、DMのメディアとしての特性や他のメディアと比べた優位性など、これまで実証されなかったことが脳の生体反応レベルで判明したという。

特に、同じ情報であっても紙媒体(反射光)とディスプレイ(透過光)で、脳はまったく異なる反応を示すことが確認されたという。

具体的には、紙媒体の方が脳内の情報を理解しようとする箇所(前頭前皮質)の反応が強く、ディスプレイよりも紙媒体の方が情報を理解させるのに優れていること、ならびにDMは連続的に同じテーマで送った方が深く理解してもらえることなどが確認されたという。

なお同社では、今回の実験により判明したデータの分析をさらに進め、そこから得られた知見を今後のダイレクトマーケティング戦略策定に活用していく予定だとしている。


トッパン・フォームズというのは民間の印刷会社やさかい、どこまで信憑性が高いのかと訝る向きもあるようやが、紙媒体の方が、ディスプレイの媒体に比べて脳内で情報を理解するのに適しているというのは以前から言われていたことや。

この報道は、それを科学的に裏付け立証したということのようや。

PISA(学習到達度調査)というのは、OECD(経済開発協力機構)が、加盟国の15歳児について学習到達度調査を目的に行なっている国際学力テストのことをいう。

2000年から実施され、3年に1度行なわれている。調査は文章の読解力、数学的リテラシー(応用力)、科学的リテラシーの3分野からなる。

この中の文章の読解力に注目してみると、総合読解力では2000年、32ヵ国中、第8位。2003年、41ヵ国・地域で第14位。2006年、57ヵ国・地域、第15位という結果になっていた。

これを見る限り、年々下がる一方やと思うていたのが、2009年、65ヵ国・地域、第8位と2000年のレベルまで持ち直している。

参加国および参加地域は、2000年の32から2009年は65の倍になっとるから、実質的には向上していると考えてええと思う。

過去最低やった2006年、57ヵ国・地域、第15位からすれば、劇的な変化や。

2012年度の結果は、まだ出ていないが、さらに向上しているのは間違いないと予想されている。

その僅かの期間に一体、何があったのか。何かがなければ、こうは変わらない。

その答えに今回のテーマ『新聞の無読者は人生の敗北者になる?』の理由を紐解く鍵が隠されているのやないかと考えた。

2006年当時、15歳児やった世代は現在23歳で、大学生か大学卒業直後の人たちということになる。

まさに、「新聞を読む」という行為そのものが、「かっこ悪い」と思い、ニュースを知るには「スマホやSNSで十分」と考えている世代なわけや。

彼らには、物心がついた頃からテレビケームや携帯ゲームが存在していた。パソコンなどの操作も学校で普通に学習しているから扱えない者は、ほぼ皆無に近いと思う。

また携帯電話が爆発的に普及していった時代に育ったということもあり、それがあるのが当然という生活を送ってきた。

つまり、デジタル機器が身の回りにあるのが普通の環境やったわけや。自らの選択とは違うところで生き方そのものが決められていたことになる。

それと比例して、家庭でも新聞の購読率が減少し始めた。ネットで新聞に関することを調べてもロクな記述や情報はない。たいていは新聞を否定する論調で埋め尽くされている。

新聞を美化した記事はむろんのこと、中立の立場で書かれた記事を見つけるのさえ稀なわけやさかいな。

そんな状況の中で生きてきた現在の大学生にとって「新聞など不要」、「新聞を読むのは、かっこ悪い」と考えるのは、むしろ自然なことやないのかと思う。

新聞の本当の善し悪しなど知らず、単にネット上の論調に流されているだけやないのかと。単に新聞を「否定すること」、「読まないこと」が、かっこ良いと勘違いしているだけやないのかと。

せやからと言うて彼らに罪はない。それしか選択肢のない時代に生きていれば誰でもそうなるさかいな。

しかし、この期におよんで『同じ情報であっても紙媒体(反射光)とディスプレイ(透過光)で、脳はまったく異なる反応を示すことが確認された』、

『具体的には、紙媒体の方が脳内の情報を理解しようとする箇所(前頭前皮質)の反応が強く、ディスプレイよりも紙媒体の方が情報を理解させるのに優れている』と言われ、

スマホやPCなどのディスプレイが紙の媒体に比べて劣っていると知らされるというのは堪ったもんやないと思う。

つまり、ニュースや情報はスマホやPCで見るより新聞紙面で見た方が脳のためには良かったということになるわけやさかいな。

彼らにとっては、そんなことなど、とうてい理解できんという気になるやろうし、とんでもない話でしかないわな。

ただ、20年以上も前から日本新聞教育文化財団が、全国の小中学校を対象に推奨して推し進めている「新聞を教材にした授業」がある。NIE(Newspaper in Education)と呼ばれているのが、それや。

これは新聞業界が、新聞購読の裾野を拡げるために画策したものやとは思うが、結果的にPISA(学習到達度調査)でも功を奏しつつあるという見方が強くなっている。

2013年現在、NIEの実践校は571校。年々着実に増え続けているという。

それには、日本新聞販売協会の「すべての教室へ新聞を」運動推進本部の働きかけがあるからやと言われている。

業界では、この運動を俗称で「すべ教」と呼んでいる。それが功を奏して、2011年から施行されとる小中学校の新学習指導要領にも「新聞を教材にした授業」が推奨される一因になったということや。

つまり、好むと好まざるにかかわらず、新聞を読む勉強をしている生徒が着実に増えつつあるということやな。

PISA(学習到達度調査)で得られたデータにより、世界的に見ても新聞をよく読む子供ほど成績が上位という結果になっていることが分かっている。

ちなみに、『2003年、41ヵ国・地域で第14位。2006年、57ヵ国・地域、第15位』という最悪の結果になっていた時期は、図らずも新聞の購読率が急激に落ち込み始めた頃と同じやった。

新聞が衰退していくにつれ、国民の学力が落ち込んでしまうと考えられる。

そのため、文部科学省もNIEや「すべ教」に荷担しようという気になったのやろうと思う。

2009年のPISA(学習到達度調査)で、65ヵ国・地域中、第8位と持ち直したのも、その影響が表れている結果やと言われている。

そのPISA(学習到達度調査)で、さらに成績が伸びれば「すべ教」のスローガンが本当になる日も、そう遠くないという気がする。

しかも、紙の新聞を読むことで頭も良くなるという科学的な裏付けが得られたということが、その追い風になるのは、ほぼ間違いない。

今までは、新聞の記事はネットでも読めるという理屈で新聞を買う必要がないと考えていた若い人の中には、「頭が良くなるなら」、「成績が伸びるのなら」新聞を購読しようと考える人が増えるやろうと思う。

もちろん、今までどおり「スマホやネットで十分」と考える人もおるやろうが、それやと「新聞を読む若者」に頭脳の面で遅れを取る可能性がある。

この事実がどこまで知れ渡るかにもよるが、人は有利な選択をする傾向にあるさかい、若い世代に再び新聞を購読しようという動きが出る可能性は十分考えられる。

新聞を読むことが「かっこ悪い」から「スマホやネットに依存しとるとアホになる」という風に変わるかも知れん。

現在、単に勿体ないという理由から新聞の購読を止めている家庭も、子供の教育上、新聞を読むことが学力の向上に有利やと知れば、親御さんたちも再び新聞を購読しようかと考え直すのやないかと思う。

子供のためになるのなら、月4000円弱の新聞代の出費など安いもんやさかいな。特に教育熱心な家庭ほど、そう考えやすいはずや。

これをどう受け取るかやが、新聞にまったく希望がないわけやないということだけは分かって貰えるものと思う。

今の若い世代は新聞嫌いでも次の世代は、子供の頃から新聞を教材として育っているわけやから、また新聞を必要とする時がくる可能性は十分あると。

現在、新聞に関する悲観的な情報が多いから、新聞の利点やメリットについては、ここまで説明せな「新聞もまだ捨てたもんやない」ということを分かって貰えんやろうと思うたので、延々と説明してきたわけや。

ただ、希望はあっても保証のできる話やない。

『代償金の高額化』というのは独立してその店舗を買い取る資金が高すぎると考えておられるのやろうと思う。

それについては、あんたが「それでもやってみたい」という気にならん限り、冒険するのは考えものやわな。

結論として、現時点でのあんたの独立は、あまり勧められん。現在の新聞販売の置かれた状況は最悪やさかいな。

ただし、将来に光明を見出すことができるのなら別や。

確かに新聞の部数は今後しばらく減少を続けるやろうが、それと平行して店舗を閉める経営者も多くなるはずや。

そうなると、結果的に閉店した店を吸収合併する店も現れる。現在、店舗が大規模化する傾向にある。それで実際に大きく稼いでおられる人もいる。

少ないパイを大勢で奪い合っても生き残ることは難しいが、奪い合う人間が減ったら、どうやろうか。

最後に生き残った者が笑うというのは、過去、様々な業界で起きてきたことや。

ただ、あんたは現在、相当に追いつめられ疲弊されておられるようや。悲観的にもなっておられる。そんな状態では、おそらく希望的観測に縋るのは難しいやろうと思う。

何度も言うが、あんたの意思がすべてを決める。

あんたが不退転の決意を持ってすれば成功するかも知れんが、疑念を抱いたままやったら失敗して後悔するのは目に見えとる。

今のあんたの精神状態、気持ちの持ち方であれば独立するは止めておいた方が無難やというのが、ワシからのアドバイス、助言や。

ただ、そうした場合『本社の担当員や所長からはゴーサインを頂いている』状態で、「やはり止めときます」とは言い辛いかも知れんわな。

そうなると、今の仕事も続けにくくなるかも知れん。その場合は、他の仕事を探すことも考えなあかんやろうと思う。

『実は現在、他の仕事も模索している』ということやが、何かアテはあるのやろうか。あれば、その道を行くのも方法や。

ないと、今の時代、そう簡単に将来性のある仕事というのは見つけにくいさかい厳しいと思う。

『ストレスが溜まりやすくなり、それがついつい家族に向かい暴力という形で表れたことがあった』というのは、かなり危険な状態やと思うので、ここはあんた一人でストレスを溜め込むのやなく、奥さんともよく話合うことや。

言いそびれたが、小規模な新聞販売店では必ず奥さんやお子さんといった身内の方が協力してやっておられるのが普通や。

せやから、独立を本気で考えておられるのなら奥さんの協力は不可欠やと思う。奥さんには、このことを相談されておられるのかな。

もし、まだなら絶対に相談されることを勧める。その時には、なるべく奥さんの意見を尊重することや。そうすればどんな結論になろうとも、あんたの家庭は上手くいくはずやと思う。

ワシからのアドバイスとしたら、そういうことや。

ただアドバイスや助言は、従うものやなく、あくまで参考にするもので、最後に決断するのは自分自身やということは分かって頂きたい。

どんな決断であれ、ワシらは尊重するし、応援したいと思う。


以上や。

最後は自分で決めるものと、この手の相談に対しては、いつも言うとるが、誰かに自分の悩みを打ち明け意見やアドバイスを訊くのは悪くはない。

というか積極的に、そうするべきや。

何でもそうやが自分一人で考え悩んでいてもロクな結論には至らんさかいな。

誰かに話すことで気づくこともあるし、決断できることもある。気持ちも楽になる。進む道も見えてくるとワシは思う。

その意味では今の世の中、ネットがある分、恵まれていると言えるのかも知れんな。



参考ページ

注1.第65回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■ある新聞販売店の取り組み その1 哀しき孤独死をなくせ』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-65.html

注2.『第301回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞復活への試み……その1 マラソンドリルとシニアサポートについて』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-301.html

注3.『第110回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞購読へのススメ その1 新聞を読むことで向上する学力について』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-110.html

注4.第269回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞購読へのススメ その2 新聞の無読者は人生の敗北者になる?
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-269.html


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