メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第413回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2016. 5. 6
■公正取引委員会の「押し紙」注意問題について
ある読者から、
お早うございます。毎週メルマガを拝見させていただいています。
ゲンさんやハカセさんは、すでにご存知だとは思いますが、今ネットでA新聞が公正取引委員会から「押し紙」について注意されたことが話題になっています。
このメルマガを昔から読んでいる私にとってはA新聞が「押し紙」をしていたこと自体に驚きはなかったのですが、今回は、今までになく公正取引委員会が動いていたと知って、そちらの方に驚きました。
「押し紙」は、他のY新聞やS新聞、M新聞などの全国紙、ブロック紙、地方紙すべてで行われているものだと思いますが、なぜA新聞だけ、そのようなことになったのでしょうか?
ゲンさんは「押し紙」を証明するのは難しいと常々仰っていますが、公正取引委員会なら立証が可能なのでしょうか?
お忙しいところ大変申し訳ありませんが、お答えできる限りで結構ですので、ゲンさんのご意見をぜひ聞かせてください。
それでは宜しくお願い致します。
というメールを貰った。
この方の言われる『A新聞が公正取引委員会から「押し紙」について注意された』問題というのは、
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160425-00507687-shincho-soci
より引用
「朝日新聞」押し紙問題 公正取引委員会から注意
発行部数の水増しを図るため、新聞社が販売店に買い取りを押し付ける「押し紙」。新聞業界は、いくら追及をされても、その存在を認めずにいるが、ついに公正取引委員会から朝日新聞が「注意」を受けたという。
4月11日、ネット誌「現代ビジネス」(講談社)が報じたのだが、何が問題だったのかと言うと、話は数年前に遡る。
本社営業担当の社員に、販売店が注文の部数を減らしたいと申し入れをしたところ、社員は、再考を促した。この際に行き過ぎた言動があったとして、今年3月末に公正取引委員会が指摘したというのだ。
朝日新聞社広報部は、口頭で注意を受けたことを認めたうえで、
「今回指摘のケースは押し紙にはあたらないと考えておりますが、注意については真摯に受け止めております」と回答。
とはいえ、公正取引委員会から睨まれたという自覚はあるようで、「法令順守の徹底を図るため、改めて販売部門の社員に対して独占禁止法順守のための研修などを行いました」(同)
だが、それだけでは何の問題解決にもならないと言うのは、今回の記事をスクープし、さらに昨年、自身の体験を生かした『小説 新聞社販売局』では、業界の暗部を描いて話題となった作家の幸田泉氏。
「押し紙だと指摘されないよう気を付けろと社員研修しても、実数とかけ離れた部数が設定されている以上、現場はその部数を販売店に押し込むしかありません。発行部数は経営方針で決められているからです」
そこに手を付けない限り、意味がないと指摘。そして、こう続けるのだ。
「複数の販売関係者に聞くと、朝日の公称部数670万部のうち、3割ほどが押し紙だそうです。つまり、実売は470万部ほど。私は、ここまで部数が減った要因の一つは押し紙だと思います。押し紙によって販売店は営業活動費が減り、部数が減る。しかし本社は発行部数を減らさないので、販売店に押し紙が増えていく。この繰り返しなのです」
まさに負のスパイラル。
というものや。
今回の読者が、『ゲンさんやハカセさんは、すでにご存知だとは思います』と
言われておられるように、早い段階でワシらも知っていた。
本来なら新聞業界にとっては大きなニュースやから、真っ先にメルマガで話すべきやったと思うが、ちょうど、そのころ熊本大地震が起きた。
このメルマガがスタートした後の過去の大地震すべてで、その状況と被害の程度、また今後のあり方について話していたのと、読者から意見や質問が続いたこともあり、そちらの方を優先させて貰った。
優先順位として熊本大地震に関する情報を読者に知らせるのが先やと判断したわけや。命に関わることでもあるしな。
ただ、今回の問題を軽く見ていたわけやない。やはり業界としては大きなニュースやさかいな。
この読者が、『このメルマガを昔から読んでいる私にとっては「押し紙」など普通にあるものだと思っていました』と言われているのは、幾度となく取り上げているからやと思う。
最も古いのは12年前、サイトの開設と、ほぼ時を同じくして掲載した『新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第5話 新聞奨学生マタやんの憂鬱』(注1.巻末参考ページ参照)の中で、初めて「押し紙」について話したものや。
押し紙というのがある。
これは新聞社が年間販売目標を決めて、新聞販売店にその目標部数分の割り当て部数を押し付けることを言う。
新聞が売れていようと売れてなかろうと、関係なく販売所に新聞を買わす。
せやから、売り上げ実部数と購入部数が違うのは、新聞販売店としては普通のことや。
そして、販売所の多くは、この購入部数をもって、公表部数にしとるんや。
というものや。
その後、10年前の2006年3月24日発行の旧メルマガ『第85回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞特殊指定について』(注2.巻末参考ページ参照)の中でも「押し紙」について言及したことがある。
押し紙もこの特殊指定の違反行為になる。
押し紙とは新聞特殊指定の3項に明示されとるように『一、販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること。販売業者からの減紙の申し出に応じない場合も含む。
二、販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること』そのものやからな。
押し紙というのは、具体的に分かりやすく言えば、新聞社が実販売部1000部の販売店に1200部を強制的に買い取らせるというような行為のことを言う。
この押し紙については、昔から言われとったことで、新聞社から押し付けられた販売店が、その負担に堪えかねて、裁判所に訴え出たというケースもある。
しかし、最高裁の判決は、そういう押し紙の存在はないとして、販売店側の敗訴となっとる。裁判官も最初からその事実はなかったと認定して判決を下しとるわけや。
ただ、その押し紙という行為はどうであれ、たいていの販売店で相当数の残紙が発生しとるのは事実や。ただ、これは、その販売店毎で割合はかなり違う。
少ない所で5%程度、多い所では30〜40%に及ぶことさえあると聞く。それらの残紙は、建前として予備紙ということになるのやが、それが、本当に適切な量なのかは疑問符がつくところやと思う。
と。
この頃までは、「押し紙」自体、あまり世間には知られてはいなかった。
「押し紙」が本格的に騒がれるきっかけになったのは、2007年8月17日発行の旧メルマガ『第158回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■押し紙裁判の波紋』(注3.巻末参考ページ参照)の中で話した裁判結果からやと思う。
この中で判決文に『販売店が虚偽報告をする背景にはひたすら増紙を求め、減紙を極端に嫌う同社(Y新聞社)の方針がある』と、あたかも裁判所が「押し紙」の存在を認めたかのような個所があったことで、多くの人が『Y新聞社が敗訴した』と考え、それが、あっという間にネット上で広まった。
ワシらも当初は、そう思うた。押し紙の存在を司法の場で認めたに等しいことになると。
ただ、その後、その判決文をよく見直して見ると、Y新聞を訴えた側の販売店が「地位保全」を主張したことに対して、それを認めた判決を裁判所が下しただけやったことが分かった。
この時、Y新聞社は訴えた販売店との業務委託契約を一方的に解除、つまり「改廃」したわけや。
裁判所は、Y新聞社の言い分は認められないから、もとどおりの状態に戻しなさいという判決やった。
その判決を出す課程で、その販売店に落ち度がないという意味を持たせるために裁判官が『販売店が虚偽報告をする背景にはひたすら増紙を求め、減紙を極端に嫌う同社(Y新聞社)の方針がある』と言うたのやと思う。
結果から先に言うと、この裁判は「押し紙」行為を認定するためのものではなく、単にY新聞社が一方的に業務委託契約を解除したことに対して「ノー」という判決を下しただけのことやった。
それがネット上では「押し紙裁判に負けたY新聞社」という構図になったものと思われる。要するに早合点したわけやな。
ちなみに、現在に至るまで新聞社に対して「押し紙」行為があると明確に認定された判決は存在しないと言うとく。
それは公正取引委員会でも同じで、証拠についても断片的に推定されるものでしかない。
『ゲンさんは「押し紙」を証明するのは難しいと常々仰っていますが、公正取引委員会なら立証が可能なのでしょうか?』というのは、「ノー」としか答えようがない。
公正取引委員会であっても確実な証拠を掴むのは至難の業やと。限りなく不可能に近いと。
今回の『本社営業担当の社員に、販売店が注文の部数を減らしたいと申し入れをしたところ、社員は、再考を促した。この際に行き過ぎた言動があった』という程度では、良くて「押し紙」があると推認できる程度のものやったと考えられる。
現在は、裁判所でもアナログテープによる「秘密録音」が証拠として認められるケースが多いから、例え口頭であっても「あんたの店で○○部の新聞を注文しろ」と新聞社の担当社員が言ったとしたら、「押し紙」と認められることもあるかも知れんが、そんなことは口が裂けても言わんやろうと思う。
現在、「秘密録音」により担当員と販売店側の会話の録音がされている可能性については新聞社の方でも、よく承知しとるさかい、それなりに用心しとるようやしな。
今回のケースも、その会話が「秘密録音」により流失した可能性が考えられる。
例え、それであっても『販売店が注文の部数を減らしたいと申し入れをしたところ、社員は再考を促した』と言うた程度の録音では、「押し紙」と認定するまでには至らんやろうと思う。
もっとも、『この際に行き過ぎた言動』の内容次第では大きく違うてくるがな。
ただ公正取引委員会が注意に止めたということは、「押し紙」があったと断定するだけの根拠と証拠がなかったという判断なのやろうな。
『今回は、今までになく公正取引委員会が動いていたと知って、そちらの方に驚きました』という点に関してはワシらも同じや。
これを、どう捉えるかやが、ここからはワシの推測になると一応、断っておいて話を進める。
『「押し紙」は、他のY新聞やS新聞、M新聞などの全国紙、ブロック紙、地方紙すべての新聞で行われているものだと思いますが、なぜA新聞だけ、そのようなことになったのでしょうか?』というのは、たまたま告発した者が、A新聞の販売店関係者やったからやろうと思う。
一般紙と呼ばれる新聞のほぼすべてで「押し紙」行為が行われていることは疑いのない事実や。少なくとも現場で働く業界関係者の大半は「押し紙」の存在を知っている。
しかし、それを暴くことができない。
それについては、2012年1月20日発行のメルマガ『第189回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■「押し紙」行為を暴くことは果たして可能なのか?』(注4.巻末参考ページ参照)の中でも詳しく説明したが、たった一軒の新聞販売店の「押し紙」行為を見抜くことさえ難しい、というより不可能なのが実状や。
もっと言えば、そもそも、どの部数が「押し紙」なのか特定できないという根本的な問題がある。
新聞社の印刷工場から新聞販売店への納入部数と、実際に配達している部数の差が「押し紙」やと主張する人がいるが、それは違う。
それで判明するのは、単にその販売店には配達されない余剰紙が存在するという事実だけにしかすぎない。
その余剰紙の中には「押し紙」を含め、様々な形態の「配達されない新聞」が存在する。
まず「積み紙」というのがある。
これは、新聞社から部数を押しつけられる「押し紙」とは逆で、販売店自らの意志で余分な新聞を買う行為のことを言う。多くの場合、新聞社には内緒で行われている。
これが新聞社が言うところの「虚偽報告」、「過剰納入」に相当する。
新聞業界において、1万部の公売部数があれば、大規模販売店と認められることが多い。
この1万部の新聞を業界では「万紙」と呼ぶ。万紙以上を扱う大型店となれば、新聞社からの扱いが違ってくる。
新聞社は、部数を多く獲得している販売店ほど大事にする傾向にある。
万紙販売店に手の届きそうな場合、多少の無理をしてでも大型店の仲間入りを果たそうと考える販売店経営者がいる。
例えば9千部の販売店が1万部確保するためには1千部が必要になるが、その分を発注するわけや。これが「積み紙」になる。見栄を張るためだけに、こんなことをする販売店経営者が実際にいとる。
また、改廃逃れのために顧客を獲得したと嘘の報告を新聞社にするケースもある。言えば粉飾決算のようなものやな。当然、これも新聞社には内緒で行われる。
さらに拡張経費削減のために「積み紙」をするというケースもある。
拡張員に拡張料を支払うのが勿体ないと考える新聞販売店のあり、その場合、自店の従業員だけで営業するとして、拡張員の入店を断るケースがある。
新聞社から指定されたノルマがクリアできれば、それでもええが、届かんかった場合、「虚偽報告」をして、その不足分を補うために部数を、よけいに発注することがある。これも「積み紙」の範疇に入る。
また、新聞販売店が、それと知らず、出入りする拡張員や販売店の従業員たちが勝手にやった「てんぷら(架空契約)行為」による「虚偽報告」というのもある。
これも結果的には同じように「配達されない新聞」ということになる。
さらに「背負い紙」というものがある。販売店の従業員には勧誘のノルマがある。そのノルマが過酷な販売店も多い。
そのノルマがクリアーできたら問題はないが、なかなかそれが難しく、できん者の方が多い。
そのノルマが果たされへんかったら、かなり厳しく叱責される販売店もあるということや。
その程度は、様々やが、その叱責を逃れる目的で「背負い紙」というのを自らの意志でする者がいる。また、それを強要する販売店もあるという。
つまり、「背負い紙」とは、ノルマの不足分を身銭切って買い取ることを意味する言葉なわけや。
さすがに今は、こんなあこぎなことをする新聞版売店は少なくなっとるが皆無というわけやない。未だに、この手の報告や相談が後を絶たんさかいな。これも「虚偽報告」ということになる。
つまり、新聞社からすれば、「押し紙」と言われているものの実態は、「積み紙」に代表される虚偽報告があるからやということになる。
まあ、その言い分はワシらからすれば無理があると思うがな。
余剰紙のすべてが「押し紙」ではないのと同じで、余剰紙のすべてが虚偽報告による「積み紙」でもないさかいな。
余剰紙には、「予備紙」というものがある。
新聞販売店に限らず、予備の商品を備えておくというのは、どんな業界にも普通にあることや。また、それがないと困ることも多い。
新聞配達時の雨風の強い日には、突風やスリップなどによりバイクが転倒して事故を起こすことがある。
そうなると、風のため飛散したり、転倒した場所が水浸しになっていて濡れたりすると、多くの新聞がダメになるという事態になる。
また、配達人の不注意による不配や誤配などの未配達新聞をカバーするためにも予備の新聞が必要になる。
いかなる事情があれ「品切れ」を理由に新聞の配達をせんわけにはいかんさかいな。そう考える販売店が圧倒的に多い。
常に万が一を考慮する販売店では、必然的に予備紙も多くなるという理屈や。
もっとも、この「予備紙」に関しては業界では取り扱い部数の2%までと決められとるがな。
何もトラブルがなければ「配達されない新聞」になるということで、2%のなくてはならん「予備紙」ですら余剰紙としてカウントされるわけや。
「試読紙サービス」というのがある。
これは購読して貰えそうな客に対して1週間を限度として無料で新聞を配達するというサービスや。その名のとおり、試しに読んで貰うというものやな。
これに関しては、新聞社を含めて公正取引委員会などの監督機関からも公に認められとるものや。
営業に熱心な販売店ほど、それが多くなる傾向にある。
しかも、「試読紙サービス」に関しては、その数量の規定はない。新聞販売店それそれの裁量で決めることができる。
極端な事を言えば、取り扱い部数の2、3割が「試読紙サービス」分の新聞やと言うても通るわけや。何ら問題はないことになる。
もっとも、そこまでしている販売店なんか知らんがな。ただ、理屈上は、そうすることも可能やということや。
これは「押し紙」でもなければ「積み紙」でもない。
ただ「試読紙サービス」分として仕入れた新聞が余れば余剰紙ということにはなるがな。
さらに新聞の購読契約時、「無代紙」というて無料サービスを中心に勧誘している販売店もあり、その分、余剰紙が多くなる傾向にある。
もっと言えば、販売店の多くは、契約当月が半月以下の場合、当月分の新聞代を無料サービスにしているケースがあるから、予備的な新聞が、その分必要になる。
それら数多くの余剰紙の中から、外部の調査で「押し紙」のみの部数を特定するのは、どんなに優秀な捜査機関を持ってしても不可能やと考える。
唯一、発覚することがあるとすれば内部告発があった場合くらいのものやと思う。
『新聞社からの新聞販売店への請求部数』というのも経営者か一部の従業員くらいしか分からんから、これも内部告発でしか発覚するようなことは、まずない。
事実、週刊誌などで記事にされとるのはそれでやし、俗に言われる「押し紙裁判」というのも、当事者である新聞販売店の経営者からの告訴があった場合くらいなものやさかいな。
外部の調査で、それと発覚したわけやない。何度も言うが、外部の調査で分かるのは、単に余剰紙がどれだけあるかということだけや。それ以外に分かることはない。
裁判の場や週刊誌、ネット上などで内部告発された事例というのは限られたもので、全国2万店あると言われている新聞販売店のうち、ほんの数十店舗程度にすぎない。
その内部告発の可能性は、それからいくといくら多く見積もって計算しても、0.005%以下ということになる。
これは内部告発が100件あるものと想定しての数字や。今のところ、そこまでの域には達していないがな。
ワシらが把握しとるのは、せいぜい十店舗そこそこや。非公開を条件に受けた相談で5件。そんなものや。
一般論として、その程度の確率のものは、稀な事案で済まされるのがオチやと思う。
もっとも、一事が万事と考える分には、例え1件でも、そういう事例があれば、その証明になると言うかも知れんが、それを以て、すべての新聞社に「押し紙」行為があるとするに無理がありすぎるということや。
「押し紙」の被害者とされる販売店側にしても自らの意志で「積み紙」をしているケースも考えられるからな。当たり前やが、訴えた側の主張が、すべて正しいわけやない。
販売店経営者ですら、それと自覚しなくても『改廃逃れのために顧客を獲得したと嘘の報告を新聞社にする』、『出入りする拡張員や販売店の従業員たちが勝手にやった「てんぷら(架空契約)行為」による「虚偽報告」』、『背負い紙』、『予備紙』、『試読紙サービス』、『月半ば以下の場合や「無代紙」サービス』といった余剰紙がある。
これに確信的な「積み紙」が加わる。
告発する側は、この際やからと、それらすべての余剰紙を「押し紙」だと主張しているという話をよく聞く。弁護士次第では、そのように指導するケースもあると。
それが、新聞社からの仕入れ部数と実売部数との差が、すべて「押し紙」やという間違った認識として世の中に広まったのやないかと思う。
いずれにしても、日本は法治国家やさかい裁判の場で決着をつけるしかない。
現在までのところ、「押し紙」裁判で訴えた側が勝訴していない理由の一つに、告発する側に正確な申告が為されていないこともあるのやないかと思う。
人は自らの落ち度、不正については、なかなか認めたくないもんやさかいな。
しかし、裁判の場で、告発者側の落ち度や不正が明らかになれば、勝ちを得るのは難しい。
結果が、それを証明しとる。
もっとも、裁判の結果がどうであろうと、現場のワシらには「押し紙」が存在しているのは常識として知っているがな。確実に「押し紙」はあると。
ただ、どの部分、部数が「押し紙」なのかを証明するのは限りなく難しいということや。その難しい証明ができなければ裁判で勝つことはできんわな。
ここで、根本的な疑問になるが、なぜ「押し紙」が不正行為、詐欺行為とまで言われるのかについて考えてみたいと思う。
それに、犯罪、損害賠償の対象になるのかということも含めて。
新聞紙面には数多くの広告が掲載されている。もちろん有料や。その誌面広告は1部につきいくらというのが一般的な広告の掲載料やという。
部数が増えれば増えるほど、その広告掲載料は高くなる。
新聞社を糾弾する側は、「押し紙」などの配達されない新聞の部数についてまで、その広告費を取っているのは「詐欺行為」やと主張する。
そこで、ハカセは独自に新聞社とクライアントとの間の広告掲載料の取り決め方について調べてみたという。
すると、発行部数1部あたりの掲載料やということが分かった。その契約書にはどこにも実売部数とは明記されていないと。
新聞社の言う発行部数とはABC部数のことを指す。
ABC部数とは、経済産業省認可の社団法人日本ABC協会という第三者機関が公表している新聞部数のことや。
但し、それは、新聞販売店からの聞き取り調査が主やから実売部数というわけではない。
新聞販売店は当然のことながら新聞社から納入されている部数でしか日本ABC協会には報告せんさかいな。
また、それで良しとされとる。
つまり、ABC部数が広告掲載料の基準なら、法律上は詐欺行為にはならんし、不正行為とも言えんわけや。
売れ残り、未配達の余剰紙がどれだけあったとしても、新聞を発行しとるというのは事実やさかいな。発行部数を基準にすれば合法になる。
もちろん、配達されない新聞というのが数多く存在すると分かればクライアントはええ気はせんやろうし、不正が許せないという人にとっては、とんでもない話には違いない。
実際に配達されない新聞が存在し、その部数分もABC部数に含まれるから、その分の広告料も支払っているということになる。
もちろん、それにはABC部数イコール実売部数やという信用、信頼の上に成り立っている事やとは思うがな。
その信頼、信用が崩れると、当然のようにクライアントからの損害賠償訴訟ということになるはずやが、それは今までのところ一件もない。
それがなぜなのか。その事実を知らんからか。いや、そうやないと思う。
これだけ、ネット上で「押し紙」についての悪い情報が氾濫しとるのやから、新聞に広告を掲載するクライアントが知らんわけがない。
それでも新聞に広告を掲載するクライアントは存在する。
それには、多くのクライアントの最大の関心事は、その広告を掲載することで得られる効果があるからやと思う。費用対効果と呼ばれとるものやな。
費用対効果さえ問題なければ、クライアントは納得して広告を掲載する。不正云々があったとしても、周りで騒ぐほど大きなことやとは考えん。次も掲載しようという気になる。
反対に効果なしと判断すると、その広告の掲載を控える。あるいは、掲載するのなら費用対効果に見合う掲載料にしてくれと交渉するかのいずれかになる。
大半の企業、クライアントとは、そういう考え方をするもんや。
それに、クライアントの企業というのは、多くの場合、日本有数の頭脳が結集された企業ばかりや。
ワシがここで言うてるようなことが分からんわけがない。先刻承知、織り込み済みやと思う。
加えて、損害賠償訴訟を起こすには、正確な「配達されない新聞の部数」を調べる必要がある。
当たり前やが、それでないと正確な被害額が算定できんさかいな。しかし、それは先に説明したように限りなく不可能に近い。それでは損害賠償訴訟などできんという理屈や。
それには数百件に1件程度の内部告発による実売部数がわかった程度では、どうしようもないということもある。
氷山の一角が分かっても、その本体である氷の塊の大きさが分からんというのと同じや。
しかも、その内部告発も、それぞれのケースでまちまちやさかい、よけいその感が強くなる。
今後は、どうなるかはワシにも分からんが、現時点では新聞社の違法行為を断罪するのは限りなく難しいと言うしかない。
そもそも「押し紙」が一般にどういう被害を及ぼしているのかというのが、もう一つ、はっきりせんということがある。
それが、この押し紙問題が、弾劾する人たちの思惑とは裏腹に、それほど大きな問題にならん要因やないかと思う。
普通、まったく読まれも買われもしない無駄な新聞を印刷すれば、そのコストが価格に反映され、その商品の価格が高騰すると考えるのが自然やが、事、新聞に関しては関係のない話だと言える。
殆どの新聞で、1994年4月を最後に、まったく値上げも値下げもされていないという事実が、それを証明しとると言える。間に二度ほど消費税の増税はあるが、それは値上げとは呼ばんさかいな。
押し紙がある故に新聞代が高くなっているとか、サービスが低下しているというのなら「それはあかん」と声を上げる一般の読者もおられるかも知れんが、それはない。
押し紙が原因で新聞社、あるいは新聞販売店と一般読者との間でトラブルになったという事例も皆無や。
一般の人には、その争点が良う見えんというのが実状やろうと思う。単に、お互いの主義主張、善悪の基準を争っているだけのことやないのかと。
人は、我が身に降りかかる事、あるいは関係する事、損得については敏感に反応するもんやが、それとは関係のない対岸の火事には傍観者になるケースが多い。
この問題に関心があるのは、押し紙の被害に苦しむ販売店経営者を別にすれば、そういう不正が許せんという人か、新聞を嫌っている人たちやと思う。
新聞は、他者への不正行為はとことん叩くのに、自らのそうした行為は隠そうとしていると映るからよけいそうなるのやろうな。
そういう主張は、それはそれでええとワシも考える。批判するつもりは毛頭ない。好きにされたらええ。
ただ、惜しむらくは、正しい情報をもとに判断していないケースが多いということや。
新聞社の不正を糾弾する姿勢そのものはええ。ワシもそれには賛成で、実際、このメルマガ誌上でも何度となく、そうしとるさかいな。
しかし、それは正しい知識と情報に裏打ちされたものであるべきやというのが、ワシらの考えや。
広くは知られていないが、押し紙で被害を受けたという主張、告発とは別に、新聞社には世話になった、良くして貰ったと言われておられる販売店の経営者が多いのも、また事実としてあると、この場で言い添えとく。
そういう意見もサイトには数多く届いている。それが世に知られることは殆どないけどな。
今回の問題が、きっかけになって「押し紙」がなくなれば良いとは思うが、どうやろうか。
もし、そうなれば、ほぼ実売部数に近い数字になるさかい、極端な部数減になるやろうと思う。と言うても、それが実態なわけやけどな。
『「朝日新聞」押し紙問題 公正取引委員会から注意』の記事の中に、作家の幸田泉氏の弁として『朝日の公称部数670万部のうち、3割ほどが押し紙だそうです。つまり、実売は470万部ほど』というのがあるが、ワシも実部数は、それに近いと思う。
A新聞は2014年8月に発覚した誤報問題(注5.巻末参考ページ参照)以降、急激に部数が減り続けている。
もちろんそれだけが理由やないが、ピーク時には公称で約900万部もあったとしていた頃と比べると隔世の感がある。
今回の問題は、その頃の話として発覚したようやが、ここまで落ちて終えば今までのような「部数至上主義」というバカげた旗など掲げる意味がない。
はっきり言うて、ここまでくれば「押し紙」なんかで部数の粉飾ができるようなレベルの話やないと思う。
「砂漠でコップ一杯の水」があったとする。これを「これだけしかない」と「まだこれだけある」と考えるのかで大きく違ってくる。
「これだけしかない」しかないと考えれば絶望的な気持ちになるが、「まだこれだけある」と考えられれば、少なくとも、その水が尽きるまでは生きられ、その間に助かる方法が見つかる可能性があるという希望を抱くことができる。
『実売は470万部ほど』というのも同じで、そこまで減ったと考えれば先行きがないという絶望感に苛(さいな)まされるかも知れんが、それが実態やと認識すれば、まだそれだけの人に支持されている支えられていると考えることができる。
よくよく考えてみれば『実売は470万部ほど』というのは凄い数字やと思う。
毎日、それだけの部数を売り続けられる商品など、そう滅多にあるもんやない。他の業界であれば間違いなく大ヒット商品や。
そう考えれば、『実売は470万部ほど』をベースに立て直すくらいは十分に可能やと思う。
そのためには「押し紙」を完全に放棄しろと言いたい。どの新聞より早く、「押し紙」を完全になくすことができれば、多くの人たちから見直される時が必ずくるはずや。
昔からピンチは最大のチャンスやと言われるが、今回のケースにも、それが当て嵌まると思う。
ワシらは昔から言い続けているが、「押し紙」は新聞業界に巣くった癌や。癌をほっとけば身体が蝕まれて死ぬ。
助かるためには手術ををして取り除くしかない。
幸い「押し紙」は新聞社の考え、方針次第で、すぐにでも止めることのできるものやと思う。その意味では、悪性ではない。
ただ、それは「押し紙」が癌やと認識している場合で、その認識がなければ病気とすら考えていないわけやから治そうという気にすらならんわな。
A新聞は現在、大きな分岐点に差しかかっている。これからA新聞のトップ、経営陣が、どう考えるか、どう舵を切るかで命運が決まると思う。
取りあえずは、しばらくの間、様子を見させて頂くことにする。
参考ページ
注1.新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第5話 新聞奨学生マタやんの憂鬱
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage8-5.html
注2.第85回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞特殊指定について』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-85.html
注3.第158回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■押し紙裁判の波紋
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-158.html
注4.第189回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■「押し紙」行為を暴くことは果たして可能なのか?』
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-189.html
注5.第328回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■報道のあり方 その7 吉田証言、吉田調書に見る誤報報道の真実とは
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-328.html
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