メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第365回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日 2015. 6. 5


■新聞販売業界に適用される法律と業界の決まり事について


ある事で揉めておられる業界関係者の方から、『法律ってなんの為にあるんですかね?』という質問を投げかけられた。

もちろん、この方が、そう言われるには言われるだけの事情がある。

しかし、その方が抱えておられる問題がまだ解決していないさかい、それについて今話すのはまずい。

質問者の許可を得た上で、すべてが終わった後にでも詳しく紹介したいと思っている。

今回はこの質問が寄せられたことでもあり、単純に新聞業界に関係のある法律、および決まり事について話すことにした。

過去、幾度なく法律や決まり事に関する話を、事ある毎にしてきたが、まとめてというのは今までなかったので、ここを見れば新聞業界の法律や決まり事について大凡の事が分かるようなものにしたいと考えたわけや。

勧誘員の立場からすると、せっかく頑張って取ってきた契約を法律を知らんために違反ということでナシにされるのはつまらん。

そうならんように、せめて新聞勧誘、新聞販売業界に関係があると思われる法律くらいは知っておいた方がええ。もちろん、業界の決まり事についても同じや。

それでは、始める。


新聞販売業界に関係する法律、および業界の決まり事について


【新聞購読契約の解約】

民法上の原則では、いつでも契約の中途解約はできるということにはなっているが、契約期間を定めた契約の場合、正当な理由がなければ契約期間内での中途解約はできないと決められている。

中途解約するには、いずれか一方に不法行為があった時か、当事者間の合意が成立した場合に限られる。

新聞購読の宅配契約に関しては、当該の新聞販売店と契約者との間でのみ有効な契約と決められている。

そのため、契約者の死亡、および失踪を以て、その契約は終了する。

しかし、新聞販売店の中には家に配達するという意識があるためか、契約者の死亡、および失踪があった場合でも契約者以外の家族にも契約を継続する責任があるかのように責め、配達を続け集金を強要する販売店の人間もいると聞くが、法律上それは許されない。

宅配の購読契約に関して新聞社はタッチしないというスタンスを取っている。

デジタル版の場合は新聞社と契約者間との契約になる。こちらの場合は原則として、解約はいつでも可能ということになっている。


【クーリング・オフ】

クーリング・オフというのは俗称で、正しくは「特定商取引に関する法律第9条(訪問販売における契約の申込みの撤回等)」のことや。

一定の期間内やったら、理由の有無を問わず、またその理由を業者側に知らせる必要もなく消費者側から一方的に契約の解除ができる法律や。

新聞契約の場合、契約書を受け取った日から8日間がその一定期間内ということになる。

これは、文書での通知やないとその効力がないと法律で決められている。

内容証明郵便や配達証明付きハガキ、簡易書留ハガキというのが一般的や。中には、電子内容証明郵便で出すというケースもある。

いずれも日本郵便(JP)で、その手続きを取るようになっとるものばかりや。

但し、これは、客が販売店に出向いて購読契約をするとか、電話で勧誘員を呼び寄せて契約をするというような積極的な契約の申し込みの場合は除外される。新聞社のWEB上での申込みも同じや。


参考ページ

▼ゲンさんのお役立ち情報 その8 クーリング・オフについての情報
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage16-08.html


【特定商取法第6条(禁止行為)】

「特定商取引に関する法律第6条」に、

『販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約を締結させ、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない』

という禁止条項がある。

これを分かりやすく言うと、契約した客がクーリング・オフを申し出ているのに、それを防ぐため脅したり威圧して困らせたりするような行為の禁止ということや。

これが適用された場合、罰則規定として2年以下の懲役、または300万以下の罰金が科せられる。

つまり、契約した客がクーリング・オフをしたにもかかわらず、それを翻意させるために勧誘員がその客に会いに行くだけで、罰せられる可能性があるということや。

実際、それに関して度を越した行為を新聞販売店の従業員が次第ために逮捕されたケースもある。


参考ページ

▼新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A
NO.108 近所で販売店員が逮捕されました
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage10-108.html


【民法第4条(未成年者との契約)および第120条(行為能力の制限)】

民法第4条に『未成年者と契約するには、原則として法定代理人(親権者)の同意が必要で、同意のない行為は、取り消すことができる』というのがある。

但し、例外として、未成年が既婚者の場合、もしくは本人が未成年ではないと告知している場合は、この限りではないとなっている。 

保護者である親御さんが「うちの子供はまだ未成年で、私はその契約を認めるわけにはいかないから取り消す」と言えば契約解除が成立する。

保護者である親御さんに、その契約の取消権があるさかいな。

民法第4条と関連する第5条3項に『法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする』というのがある。

分かりやすく言えば、未成年であっても、小遣い程度の金銭であれば、契約の取り消しはできないという考え方や。

販売店や勧誘員の中には、その点を突いて「解約できない」と迫ることがある。

小遣いの範囲というのは実に曖昧なもので、法律でどの程度の金額までが適用されるのかといった定義がされていないから時折、勧誘の現場で揉め事になる。

このメルマガやサイトでは新聞契約は小遣いの範囲には該当しないという判断で、アドバイスをしている。

1ヶ月3000円〜4000円程度やから、勧誘する側としては小遣いの範囲やないかという意見になるのやと思うが、契約は総額で判断するのが一般的な法解釈や。

小遣いで物を買う行為は比較的少額で一過性、一度きりというのが多い。分割して支払う場合は総額が購入代金ということになる。

最低の3ヶ月契約にしたところで、9000円〜12000円になる。収入のない学生さんにとって、その額は小遣いの範囲を逸脱しとるやろうというのが、ワシら、および、当メルマガやサイトに協力して頂いている法律家の先生方の共通した意見や。

行為能力が制限された者を「制限行為能力者」と呼ぶ。具体的には未成年者、成年被後見人、被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人などが、それに該当する。

「制限行為能力者」も法定代理人の同意が必要で、同意のない行為は、取り消すことができるとなっている。


【民法96条(契約の意思表示)】

民法第96条に『詐欺や脅迫により契約したという意思表示をした場合は、その契約を取り消すことができる』とある。

当たり前過ぎて解説の必要などないやろうと思う。証拠は必要やが、たいていの場合、メルマガやサイトで推奨しとる「秘密録音」で相手との会話を録音しておけば、容易に証拠を掴むことができる。


【民法113条(代理権者)】

民法第113条に『代理権を持たない者が他人の代理人としてした契約は、その本人がその契約を認めない場合は無効となる』とある。

例えば、留守番をしているお年寄りが、ご子息の名前で新聞の購読契約をした場合、ご子息から「それは承諾していない契約や」とクレームがあれば、その契約は無効になるということや。


【民法第415条(債務不履行)】

一般的には「契約不履行」と呼ばれているもので、これには「履行遅滞」、「履行不能」、「不完全履行」の3種類がある。

新聞購読契約において「契約不履行」で最も多いのが、契約者の「引っ越し」による「履行不能」の場合や。

新聞は宅配制度により、同一の地域では新聞1社につき1店舗と決められている。同じ新聞であっても、その販売店の営業区域外への配達は認められていないわけや。

新聞の宅配購読契約は当該の新聞販売店と契約者のみの間で有効な契約である以上、契約者がその新聞販売店の宅配可能な地域外に「引っ越し」した場合、実質上、新聞の配達ができないということになる。

その場合は「履行不能」ということになる。「引っ越し」に関しては新聞販売店の責任とは言えないというのが業界内の一致した見解やが、法律上は「債務不履行」として責任を負わなければならない。

この場合の責任とは、その契約の解除を意味する。まあ、配達できんようになったわけやから、責任云々にかかわらず、そうせざるを得ないがな。

こんな場合、新聞社には「引っ越し」先の同系列の販売店で、その契約を引き継げるような「転居通報システム」というがあるが、引き続き、その新聞を購読するかどうかの選択は契約者の判断に委ねられている。

「履行遅滞」というのは新聞の場合、契約日になっても新聞の配達がされないことを意味する。

「不完全履行」に関しては、配達が開始された以降、不配や遅配、誤配が続いたことを理由として契約者が、そう宣告すれば成立する。

要するに「何回言うても新聞を満足に配達できんから契約を破棄する」ということやな。

いずれのケースも契約者側から「契約破棄」を主張できる。


【民法第545条(原状回復義務)】

『契約が解除されると、契約は締結した時に遡って消滅し、各当事者は互いに相手方を原状に復せしむる義務(原状回復義務。受領した物を相手方に返還する義務)を負う』というのがある。

新聞購読契約の場合、契約時に貰ったサービス品を返還するというのが、これに当たる。

条文に『原状回復義務は不当利得返還義務として構成される』とあるのが、それや。

『契約時に貰ったサービス品』は、その契約を全うすることを条件に渡しているものやさかい当然やわな。返さないとなると、それは『不当利得』ということになる。


【民法第703条(不当利益返還請求権)】

「不当利益返還請求権」とは、正当な理由なく他人の損失によって財産的利益を得た者に対し、自己の損失を限度として、その利得返還を請求できる権利のことや。

理由の如何を問わず、本来得られるはずのない利益を得ていれば、すべて「不当利益」ということになる。

法律は、その返還要求をする権利があると認めとるわけや。

民法第545条の原状回復義務に属する景品サービスの返還に応じない場合は、新聞販売店としては、この法律により契約者に対して景品サービスの返還要求ができるということや。


【民法第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)】

民法第761条に『夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責に任ずる。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りではない』というのがある。

これに関しては、当サイトにご協力して頂いている法律家の先生のご意見を重視し、新聞購読費については日常の家事に関する債務になると判断し、それをもとに相談者の方にアドバイスをしている。

但し、新聞購読契約に関する判例がないさかい、絶対に正しいとまでは言い切れんがな。裁判になれば、おそらく、そう認められるはずやという程度や。


【刑法第130条(住居侵入罪、不退去罪)】

住居侵入罪とは、正当な理由なく他人の住居や管理する建造物に無断で入り込むことや。

不退去罪と言うのは、「帰ってくれ、出て行ってくれ」と要求されたにもかかわらわらず、他人の住居や管理する建造物から退去せんかった場合の罪ということになる。

適用された場合、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処するとある。これは刑事罰で逮捕もあり得る。

新聞勧誘員の中には、昔から、この法律に違反する者が多かった。断られて簡単に引き下がったら営業の仕事なんかできんと考えるわけやが、程度が分からず、これで警察に通報されるケースが結構多い。


【刑法第159条(私文書偽造等)】

勝手に他人名義の契約書を作ったり、契約書を改竄することや。

残念ながら、これをやる新聞勧誘員も多い。こんなのは弁解の余地なしや。

この罪はやっている者が考えている以上に重い。3ヶ月以上5年以下の懲役に処するという規定があるさかいな。


【刑法第222条(脅迫罪)】

新聞勧誘の現場では「喝勧」と呼ばれている昔ながらの勧誘方法にあるものやが、これはれっきとした刑法犯罪になる。

2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するという規定がある。

こんなのは論外やが、一応、説明すると、相手の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加えるような言動をして脅迫することや。これは、相手自身やなく、親族を脅すと言うても同罪になる。

昔は、殴るぞとか怪我さすぞ、殺すぞという直接的な言葉でしか取り締まれんかったが、今は暴力団との関わりや存在をほのめかすのはもちろん、入れ墨をこれ見よがしにちらつかすだけでもアウトやし、刑務所帰りやと言うだけでもあかん。

要するに相手を怖がらせるような言動は、すべて脅迫罪になると認識しとく必要があるということや。


【刑法第246条(詐欺罪)】

新聞勧誘員に騙されたという話はよく聞く。嘘をついて契約を取ったという話も枚挙に暇がないほど多い。

しかし、勧誘員と客との間での新聞購買契約では、刑法上の詐欺罪は成立しにくいということがある。

詐欺罪が成立する条件には、人を欺いて財物を交付させた者という要件が必要になる。

新聞契約の場合は、客には新聞代だけの請求しかせん。欺されて契約したからと言うて新聞代が倍になるわけやない。余分な金銭の請求も、まずない。

但し、騙しや嘘による契約は無効にはなる。それで済む。客に実質上の損失被害がない以上、詐欺罪は成立せんという理屈や。

実際、客と新聞勧誘員と間で契約を巡って詐欺罪が適用されたことはない。少なくともワシは、そういうケースを知らん。

ただ、拡張員と販売店や新聞拡張団との間であれば詐欺罪が成立する可能性はあるがな。

典型的なのが「てんぷら」と呼ばれる架空契約や。

「てんぷら」行為は、客の意志を無視して勝手に契約をでっち上げたり、存在しない人間の契約を偽造したりして、あたかも契約を取ったかのように装い、その拡張報酬を手にすることや。

これは、明らかに騙して新聞販売店や新聞拡張団から金銭を受け取るさかい、詐欺と言われても弁解の余地はない。

ちなみに、この場合は10年以下の懲役刑となる。

せやけど、新聞業界の場合、よほど悪質やない限り告訴されるケースは少ないけどな。少々のことであれば業界内のしきたりとして、それ相当のペナルティ程度で済むことの方が多い。


【消費者契約法】

消費者契約法は民法と商法の特別法という位置づけになっている。

この法律は、消費者と事業者間の契約すべてが対象となる。勧誘時に不適切な行為があれば契約は取り消せる。全体として消費者に有利な法律や。

新聞勧誘時で該当する不適切な行為とは「嘘を言う」「都合の悪いことを知っていて隠していた」「帰ってくれ、と言っても帰らなかった」ということなどが、それになる。 

これは、消費者からのアピールがあって初めて適用される法律や。アピールも早めにせんと手遅れになるケースがある。時効というものがあるさかいな。

例えば、騙されたと気づいた時から6ヶ月以内に、契約を解除したいという意志を契約相手である販売店に伝えておかないとその契約の解除が時効のためにできないということが起きる。

ここで、勘違いしやすいのが、契約してから6ヶ月以内でないとあかんのかということやが、そうではない。

新聞契約の場合、約入りと言うて、1、2年先の契約も珍しいことやない。

その時に交わした契約が、拡張員との間で1年契約やったのが、実際、購読が始まって2年契約やったと分かったということも十分考えられる。

そこで、初めて騙されたと客は気づく場合が多い。この法律は、それと分かった時点から、6ヶ月以内であればアピールは有効やと言うてるわけや。

ただ、契約書が明らかに改竄されているような場合の解約の申し入れは何の問題もないが、契約者の勘違いしていたという場合がある。

拡張員が2年契約だと説明して、契約書にも確かに2年となっているが、契約者は1年契約やと思い込んで騙されたと言うケースなんかが、そうや。

この場合は、契約者にその契約書の確認を怠った落ち度があるとされ、それを理由としての契約解除は認められないことが多い。

消費者契約法で契約が取消されるケースとして『不実の告知』、『断定的判断の提供』、『故意による不利益事実の不告知』、『不退去』、『退去妨害または監禁』、『消費者が支払う違約金等の額を過大に設定する条項』、『消費者の利益を一方的に害する条項』などがある。

ただ、これらは事案により理解、判断の相違ということもあるさかい、一概に決めつけることはできん。ケース・バイ・ケースや。


参考ページ

▼消費者契約法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO061.html


【景品表示法(6・8ルール)】

独占禁止法の補完法に景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)というのがある。

この法律を扱っている行政機関が消費者庁であり公正取引委員会や。警察や裁判所では扱っていない。

新聞勧誘時の景品サービス付与がこの法律の対象になる。

新聞勧誘の場合、契約者に渡すことのできる景品の上限は業界の自主規制によるものとされとる。新聞業界の自主規制が公正取引委員会の認定を受けることで法律になったという希有なものや。

ちなみに、新聞業界の自主規制は景品の最高額を取引価格の8%又は6ヶ月分の購読料金の8%のいずれか低い金額の範囲ということになっとる。

これは俗に新聞業界で『6・8ルール』と呼ばれとるものや。

この法律で言えば、6ヶ月契約以上はすべて同じ金額相当の景品以内ということになる。

この景品表示法は、あくまでも業者を取り締まるための法律や。勧誘員個人を取り締まるためのもんやない。当然、個人に対する罰則は何もない。

新聞業界の場合、この法律が適用されるのは新聞販売店だけということになっている。

但し、新聞業界に関して言えば、ここ十数年摘発された事例がない。この法律に違反した事例がないというのとは違う。

毎年、消費者庁や公正取引委員会に届けられる『6・8ルール』の違反報告事例は数千件に及ぶと言われているが、なぜか、そうなっている。

有名無実の法律と言えば言い過ぎかも知れんが、そんな感じに近い。

新聞業界で『6・8ルール』が決められた当時、一般の業界での景品付与の上限が10%やった。当時でも他の業種と比べて厳しいと言われていた。

それが、現在では一般の業界での景品付与の上限は20%まで緩和されている。

それにもかかわらず新聞業界は、未だに『6・8ルール』のままや。

普通に考えて、他の業種で景品付与の上限を20%まで緩和している以上、今更『6・8ルール』の上限8%に違反しているとして摘発するのも、どうかと思うしな。

それに手をつけていないさかい、それ以上の違反であってもなかなか摘発に踏み切れず躊躇しているのやないかな。それがここ十数年、ただの1件も摘発事例がない理由やないかと思う。


【個人情報保護法】

個人情報保護法は2005年4月1日より全面施行されている。

新聞業界は契約を取ること自体が、個人情報の収集になる。新聞購読契約書には、契約者の氏名、年齢、住所、電話番号を書くのは当然として、勤め先の情報まで記入する欄がある。

個人情報保護法には個人情報を収集して、その使用目的を明らかにしなければならないというのがある。

新聞販売店の場合、顧客への配達サービス向上のためというのが表向きの理由や。実際それもあるが、それ以上に顧客を囲い込むための情報として使うケースの方が多い。

一度、顧客として登録された情報は、よほどのことでもない限り抹消されんさかいな。契約が終了した後でも「お越し」という名で、その契約を復活させようとやっきになっている。

個人情報は、それをする時に力を発揮する。

ただ、情報漏洩という点に関しては新聞社、新聞販売店、新聞拡張団とも神経を尖らせているので、それほど心配する必要はないと思う。

これは情報管理を厳しくしているからと言うのとは少し違う。

特定の新聞社の新聞販売店や新聞拡張団などの業界関係者が、その情報を外部に漏らしてもあまり益にはならんということがあるからや。

むしろ他紙業界関係者に顧客の個人情報を知られると、その顧客を奪われるという恐怖心に駆られるため、是が非でもその個人情報を守ろうとする。

変な話、同じ新聞の販売店や拡張団の勧誘員であっても、その情報を隠そうとするのが普通やさかいな。仲間同士で顧客に関する情報交換も殆どない。

実際、新聞業界で情報漏洩問題や事件の発生も皆無に近いさかいな。


【新聞特殊指定】

「新聞業における特定の不公平な取引方法」というのが、1999年7月21日、公正取引委員会で告示された。俗に「新聞特殊指定」と呼ばれとるものや。

以下がその主な内容になる。


1.日刊新聞の発行業者は、直接、間接を問わず、地域、相手により異なる定価や定価を割り引いて販売すること。但し、学校教材、大量一括購読、その他、正当で合理的な理由の場合この限りではない。

2.新聞の個別配達をする販売業者(新聞販売店)が、直接、間接を問わず、地域、相手により異なる定価や定価を割り引いて販売すること。

3.発行業者が販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号に該当する行為をすることで、販売業者に不利益を与えること。

一、販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること。販売業者からの減紙の申し出に応じない場合も含む。

二、販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。


以上の禁止項目に該当していると判断されたら、特殊指定を外されることになる。

今から9年前の2006年に新聞業界は、そうなるかも知れんという危機に瀕したことがあった。

それについては、

▼第85回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞特殊指定について
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-85.html

で詳しく説明しとるさかい、それを読んで貰えれば分かると思う。

当時の公正取引委員会には、実質上、新聞の特殊指定の条項が守られていないのやないかという懸念が強かった。

そのため、「新聞特殊指定」外しを本気で考えていたようや。実際に、そういう動きがあった。

「新聞特殊指定」が外されれば、過度な価格競争が起き、経済的に体力のない新聞社や販売店は倒産、廃業を余儀なくされる可能性が高いと新聞業界は主張していた。

業界にとっては大変な死活問題やと。

しかし、結局この問題は一旦先送りという形で落ち着き、現在に至っている。

未確認情報ながら、それには新聞業界の有力者が政府高官を動かしたことが大きいと言われている。


【特定商取引に関する法律の改正法第3条(勧誘の意志の確認)】

2009年12月1日。『特定商取引に関する法律』の改正法の施行が開始された。

その第3条ノ2第1項「勧誘の意志の確認」で『販売事業者又は役務提供事業者は、訪問販売をしようとするときは、その相手側に対し、勧誘を受ける意志があることを確認するよう努めなければならない』と規定された。

これにより、これからは、「新聞の勧誘をさせて頂きますけど、よろしいでしょうか」と確認してからでないと勧誘したらあかんということになったわけや。

この「勧誘の意志の確認」の中には勧誘員の素姓を明らかにしてということも含まれる。

そのため、「宅急便です」、「古紙回収の者です」と言って客を玄関口に呼び出そうとする「ヒッカケ行為」のように勧誘員自身の身元を偽るのは完全に違法になると規定されたわけや。

それまでは勧誘営業手法の一つと大目に見る風潮もあったがな。半ば容認されていたようなところがあった。現在は、それでは許されんということやな。


【特定商取引に関する法律の改正法第3条(再勧誘の制限)】

同じく『特定商取引に関する法律』の改正法第3条ノ2第2項に「再勧誘の制限」というのが加えられた。

『販売事業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約を締結しない旨の意志を表示した者に対し、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない』というものや。

分かりやすく言えば、一度断った客には次から勧誘したらあかんということや。これは基本的には口頭で伝えてもええということになっている。

この「再勧誘の制限」に違反すると、業者は業務停止命令などの厳しい行政処分が下されるという。

新聞業界の場合、新聞販売店がその対象になる。

拡張員は勧誘時に、その販売店の社員証を所持しとるのが普通やから、実質的には新聞拡張団という他企業の人間であっても、法律上はその販売店の人間、勧誘員として扱われるわけや。

せやからと言うて、拡張団および拡張員に、その法律が直接関係ないとタカを括(くく)らん方がええ。

それに違反すれば法律の縛り以上の報いが返ってくるというのは、容易に想像できることやさかいな。

拡張団の販売店への入店日程は、実質的には新聞社の担当と呼ばれる販売部の人間が決め、各販売店は、今までそれを拒否し辛い状況にあった。

それが、この法律の改正で新聞販売店の責任と罰則がより強くなったことで、その違反行為をする拡張員、拡張団の入店を拒否しやすくなっている。

そうせな、新聞販売店が責任を問われるおそれがあると言えば、新聞社も認めざるを得んさかいな。


参考ページ

▼第79回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■『特定商取引に関する法律』改正法は業界にとってのチャンスになる?
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-79.html


【金券廃止令】

全国紙のA紙とY紙が2007年4月1日から関東方面において新聞社通達として『金券廃止』の方針を本格的に打ち出した。

一つには、行き過ぎた金券を渡す勧誘員が目立ったため、公正取引委員会の追求を躱す必要性に迫られたということが考えられる。

業界として何も手段を講じずに放置すれば、ヘタをすると一旦沈静化した「新聞特殊指定の見直し」問題が、再燃しかねんと考えとるさかいな。

今度、そうなれば、前回のように上手く収まるという保証はどこにもない。前回も、綱渡りに近いくらい危ういものやった。次はないと、業界が考えても不思議やない。

それなら、その違反だけを取り締まればええやないかという意見も聞こえてきそうやが、それもかなり難しい状況にあるようや。

関東一帯の販売店や拡張団、拡張員のそういった暴走を最早食い止めることができない状況になっているとA紙とY紙は考えたのやろうな。

現実に、それを憂うA紙とY紙の販売店の中には、拡張員の入店そのものを拒否するというケースも出てきたということもあるしな。それしか、それを防ぐ手立てがないと。

そういう状態で組織が採る方法で最も多いのが、一切禁止という非常手段や。

それで、どの程度、暴走を食い止められるかは分からんが、少なくともA紙とY紙の確固たる姿勢は示せる。そのための「金券廃止令」と考えた方が、ワシには自然に思える。


参考ページ

▼新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&ANO.385 なぜ金券廃止の流れになったのか教えて下さい
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage10-385.html


【正常化の流れ】

これを一言で言えば、勧誘時、契約者に対して渡していた景品類を少なくしようという動きや。経費節減のために。

別の見方をすれば、『景品表示法』で決められた『6・8ルール』内の景品付与以下に抑えることで法律を守ろうとしているとも言える。

新聞社は昔から値引き行為は認めないという立場やから、それを言い出すのはよく分かる。それに新聞販売店が経費節減のために乗ったというのが、事の真相やと思う。

世の多くの企業がそうであるように、売り上げが減ったからといって営業経費を節減するという手法を採れば先細りして、売れるものも売れず、結局は倒産の憂き目を見るだけなのやが、その愚に気がつかんのやろうかと思う。

なぜか。それは、『経費節減』という考え方は、経営側のみに立った見方で、そこで働く従業員や顧客に対する配慮に欠けているからやと思う。

それが、結局は新聞社や新聞販売店自らの首を絞める結果になる。

その新聞の正常化の流れが顕著になって以来、新聞部数は大幅に減少し、販売店も数千店舗規模で廃業していっているのが現実なわけや。

確かに景品表示法の「6・8ルール」以上のサービスをすれば法律違反ということになるから、それを無視しろとは言えん。それが正論やと言われれば、そのとおりやさかいな。

ただ、客側からすれば、今まで受けていたサービスが、急にもうできませんでは、納得できんわな。それなら「新聞を止めようか」と考える人が出て来ても無理はない。

何でもそうやが、極端な変化は必ず大きなリスクを伴うもんや。この場合は部数減に陥っているというのが、それになる。

部数減を覚悟で収益が減るのも致し方ないと考えて、そうするというのなら、まだ分かる。部数が減ったら減ったなりの経営をすればええわけやさかいな。

しかし、新聞社が、そんな理解をすることもなければ、そんな考え方になることもない。

その部数減の矛先は「営業成績が悪いのはお前らの責任や」と、新聞販売店の従業員や新聞拡張団の拡張員に向かう。彼らを責めて、その負担を強いることになる。

客のことを考えず、働く者を大事にせん企業に未来など絶対にないと断言する。

はっきり言うが、このままの状態が続けば、どんなに頑張ろうと決めている人間でも契約が取れず生活ができんさかい、業界去らざるを得んようになる。

実際に、新聞販売店、および新聞拡張団に従事する人たちが、ここ数年の間、大幅に減少しているしな。

人の減っていく業界、企業の行く末は衰退しかない。現実に新聞業界は、このままやとそうなる可能性が高い。

今、新聞販売店のやるべきことは経費節減なんかやなく、いかに顧客を大事にしてつなぎ止めるか、いかに従業員に仕事のしやすい環境を与えられるかという点に尽きると思う。

それが結局は新聞販売店自身の生き残る道になると確信している。一刻も早く、そのことに気づいて欲しいと願わずにはいられない。


参考ページ

▼新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&ANO.990 これから新聞販売店の成り行きはどうなるのでしょうか
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage10-990.html


【労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)】

新聞販売店の中には、集金の未回収が起きた場合、集金に自腹でその金を負担させる「切り取り行為」というのを、やっているケースがある。

集金に使う「証券」と呼ばれるものは2枚綴りになっていて、1枚は店に提出する控え、もう1枚は客に渡す領収証になる。

「切り取り行為」というのは、新聞講読代金が集金期日までに回収できんかった分を集金人が給料で一時立て替えするシステムのことで、店側には控えの証券だけを切り離して渡し、客への証券(領収証)を手元に残すために、そう呼ばれとるものや。

本来は、客から集金した際に客へ「証券(領収証)」を渡し、残った控えの証券と集金した金を店に収めることになっとるのやが、実際には集金できてないわけやから、客への領収書になる証券が宙に浮いた格好になって残る。

それを締め切りに間に合わなかったからという理由で行う「切り取り行為」は、新聞販売店による集金人への債権譲渡に該当する。

立て替えするということはつまり、集金人が販売店に対し、その債権の譲渡代金の支払いをしたものと考えられるということや。

これは労働の対価として支払う賃金とは本来無関係なものや。

それを給料の中から天引きして、その分差し引くことは、労働基準法第24条第1項「賃金全額払いの原則」に抵触し違法性が高いと言わざるを得ない。

通常、切り取り行為をしている新聞販売店のすべてで、これに抵触する可能性が高いと言える。

労働基準法には、この他に休日、有給休暇、長時間労働、残業代の未払い、労災保険など多くの問題を抱えているが、その違反性については、それぞれ個別に判断するしかないと思う。

サイトのQ&Aには、その手の事案が多いさかい見て貰えれば、ワシの言う意味が分かって頂けるはずや。


【労働契約法】

民法の特別法として、平成20年3月1日。労働契約に関する基本的な事項を定めた法律が施行された。

従来からの判例法理を成文法化することにより、労働に係る民事紛争の解決について予測可能性を高めているとされている。労働者保護の観点が強いというものや。

『労働基準法が、最低労働基準を定め、罰則をもってこれの履行を担保しているのに対し、本法は個別労働関係紛争を解決するための私法領域の法律である。

民法の特別法としての位置づけとしての性格を持つため、履行確保のための労働基準監督官による監督・指導は行われず、刑事罰の定めもない。また行政指導の対象ともならない』とある。

この労働契約法に関しては施行されて、それほど年月が経っていないということもあり、新聞業界では、まだあまり争点になっていないさかい、どこまで関わり合いがあるのかは正直分かっていない。

そのうちと言うと語弊があるかも知れんが、話せる時が来るのやないかと思う。


参考ページ

▼労働契約法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO128.html


【新聞購読契約ガイドライン】

2013年11月21日。日本新聞協会、および新聞公正取引協議会が「新聞購読契約ガイドライン」なるものを発表した。

おそらく、ワシの知る限り、新聞購読契約についての初めてとも言える公式なガイドライン、指針やないかと思う。

今までは各新聞社毎で系列の販売店、拡張団に「常識」と「法律」に則った勧誘を心がけるようにと通達することで済ませていた。

「金券廃止」や「正常化の流れ」などで勧誘の制限は加えている新聞社もあるが、基本的には新聞販売店各自の責任で判断するようにという形で押しつけていた。

そのため新聞の購読契約に関するトラブルや苦情を持ち込まれる新聞社の苦情係は、「契約のことに関しては当該の新聞販売店とご相談ください」と逃げることができた。

しかし、日本新聞協会、および新聞公正取引協議会が公式にガイドラインを決めたことで、今までのように「契約事に関しては新聞社は知りません。タッチできません」という態度では対応できにくくなった。

これは大きな変化や。特にワシらにとってはサイトのQ&Aでの回答に大きく影響する画期的な出来事やと思う。

「解約に応じるべき場合」と「丁寧に話し合って解決すべき場合」に分け、具体的な事例を列挙している。

「解約に応じるべき場合」では、

『長期や数か月先の契約を抑制するため、公正競争規約の上限を超える景品を提供していた場合は、解約に当たって景品の返還を求めてはならない』

『クーリングオフ期間中の書面による申し出や規約違反、相手の判断力不足、購読が困難になる病気・入院・転居、購読者の死亡、未成年者との契約などは解約に応じるべき』と掲げ、

また『威迫や不実の告知など、不適切な勧誘を行った時』、『本人や配偶者以外の名前で契約した時』、『契約期間が自治体が定める条例の基準を超過していた時』なども同様に解約に応じるべきとした。

「丁寧に話し合って解決すべき場合」では、

『読者から都合により解約したいとの申し出があった場合』、『契約事項を振りかざして解約を一方的に断ってはならない』、『過大な解約条件(損害賠償や違約金の請求など)請求してはならない』、『購読期間の変更など、お互いが納得できる解決を図らなければならない』とした。

これは法律での決まり事やないが、業界人にとっては、ある意味、法律より思い決定事項やと言える。


参考ページ

▼第286回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞購読契約ガイドライン決定……今後のQ&Aでの影響について
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-286.html


この他にも、探せばまだまだあるかも知れんが、大体この程度が分かっていたら十分や。

ただ、法律や決まり事は、それがあるから、それを知っているからといって万能やない。過信したらあかん。

法律や決まり事は、あくまで指針にすぎんさかいな。

最後は当事者同士の間で納得するということが最大のトラブル防止、解決につながると知っておいて欲しいと思う。


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