メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第437回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2016.10.21


■新聞販売店物語 その21 客に引っ掛けられた、ある専業員の怒り


その日もA新聞販売店の専業員コンノは、いつものように責任区域内で新聞勧誘をしていた。

新聞勧誘とは、訪問販売に属する営業行為になる。今更な話やが簡単なものやない。

それは訪問営業全般についても言えることやが、人から歓迎されることなど殆どなく、多くは嫌われる仕事やからや。

その中でも新聞勧誘は最悪の部類に属するという認識を勧誘員自らが持つ必要がある。

営業というのは多くの職種で最も重要な仕事として認識され脚光を浴びるのが普通やが、事、新聞の場合は違う。

新聞自体はメジャーな存在でありながら、営業に関する仕事ぶりが表に出ることは殆どない。

それどころか、新聞業界そのものが新聞勧誘の実態に関し、タブー視して隠す傾向にある。

そのため業界における新聞勧誘員の地位と収入は、新聞社の社員に比べると極端に低い。それに伴い一般社会からの評価も悪く嫌われているのが実状や。

もちろん、それにはそれなりの理由があるわけやが、新聞勧誘に携わる者は、まずその事を覚悟して取り組む必要がある。

それが、どんなに理不尽なことであってもや。

新聞勧誘にとって最も難しいのは『ドアを開けさせて話を聞いて貰えるようにすること』やと言われている。

インターホン越しにセールストークを駆使して、落とせれば、それに越したことはないが、それだけに頼っていたんでは残念ながら、新聞勧誘は厳しい。

よほどのことでもない限り、新聞勧誘と知られるだけで「結構です」と言って「インターホン・キック」しようと決めている人が多いさかいな。

「インターホン・キック」が多いのは、直接顔を合わせて話を聞いてしまうと断りきれない、断る自信のない人が多いからだと言われている。

それもあり、成約率を高めるためには直接の面談に持ち込むしかないというのは、この業界に携わる者にとっては常識になっている。

直接会って勧誘できれば成約率も上がると。ただ、それが難しい。難しいが、できることは幾つかある。

まず営業中は絶対に笑顔を絶やさないこと。これは、新聞勧誘に限らず、すべての営業マンが心得ておかなあかん基本中の基本や。

笑顔でいれば明るい雰囲気を醸し出すことができる。

人は感情の動物で、明るい雰囲気の人間と接すると安心する。逆に、しかめっ面や苦虫をかみつぶしたような暗い人間に対しては無意識のうちに困難を避けようとする本能が働いて拒否行動を取るようになる。

「テレビカメラ付きのインター・ホンなら、それも分かるが声だけの場合だったら、笑顔かどうかは相手には分からないのでは」と言う者もおるかも知れんが、それは間違っている。

人は笑顔の状態で話すのと、そうでない状態で話すのとでは言葉の響き、伝わり方がまるで違う。

例え相手に顔が見えていない場合であっても笑顔で話せば明るく聞こえ、与える印象も良くなる。印象が良くなれば、中には話くらい聞いても良いかと考える人もいて、ドアが開く確率も増す。

笑顔には他の効果もある。

人には笑顔を作るための表情筋が顔全体にある。笑顔により表情筋が活性化することで脳の血流が良くなり、脳細胞が活性化すると言われている。

つまり、常に笑顔を作っているだけで賢くなれる可能性が高いということやな。

また、笑顔になることによって脳内に心のバランスを整える働きをする「セロトニン」という物質が増え、脳はストレスに強くなり、リラックスしやすい状態を保ち、プラス思考になれると医学書にも書いてある。

さらに、笑うとリンパ球の一種であるNK(ナチュラルキラー細胞)が活発に活動し、身体に入ってきた異物やウィルス、および癌細胞を攻撃すると言われている。

笑顔を作り、笑うことで活性化した血流は、細胞を活性化する神経伝達物質「神経ペプチド」を身体の隅々まで運ぶ。

この「神経ペプチド」のおかげでパワーアップしたNK(ナチュラルキラー細胞)が、免疫力を高めてくれるというわけや。

笑顔を作ることは営業だけやなく、自身の健康と精神の安定のためにも良いということになる。

もっとも、そんな専門的なことを知らずとも、明るい表情をしていれば自然に他人から好感を持って貰えるくらいなことは誰にでも分かると思う。

営業に、それを活かさな損やわな。どんな形であれ客と接する時には意識的に笑顔を作るようにすれば、相手から好感を持たれる可能性が高まり、それが営業にも好結果を生むんやから。

もっと言えば、笑顔は相手だけやなく、自分自身の気持ちも明るくし、前向きにしてくれる。気持ちが前向きになると、やる気が出るということにもつながるといった具合に良いことずくめや。

次に大事なのが挨拶。人と人との関わりは挨拶で始まる。もちろん、営業の現場においてもそれは同じや。第一声は必ず挨拶言葉から入らなあかん。

しかし、実際に新聞勧誘営業の現場で、その挨拶をちゃんとしている者がどれだけいるのかとなると、途端に怪しくなる。

はっきり言うが、新聞勧誘営業の基本は挨拶から始まると言うてもええくらい大切なものや。

「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」「はじめまして」「ごぶさたしています」などは殆どの人が日常、常識的に使っている挨拶言葉である。

さすがに、それを知らんと言う人はおらんやろうが、挨拶言葉を省いている勧誘員が多いと知り、愕然としたことがある。

挨拶をせんでも特に問題はないと考えとるのなら大間違いやと言うとく。最初の挨拶もロクに言えん人間に、まともな営業などできるはずがない。

常識以前に挨拶をすることで得られるメリットが多いという事実を知らなあかん。

まず、大きな声で挨拶すれば、言っている者自身の気持ちが高揚する。気分が良くなる。少なくとも挨拶言葉を口にした者の意気が下がることはないはずや。

新聞勧誘員にとって、気分が高揚するか、どうかというのは重要な意味を持つ。それにより、その日の仕事の出来、不出来が左右されると言うても過言やないさかいな。

無理にでも大きな声で挨拶をするように心がければ、表情は自然と明るくなり、口調もしっかりしたものになってくる。

嫌なことがあって落ち込んでいても、大きな声で挨拶をしているうちに気分が晴れてくることも多い。

挨拶を続けていけば、気分も良くなり性格も明るくなると医学的にも証明されている。挨拶にはネガティブな気持ちを吹き飛ばす力があると。

実際、落ち込んだ雰囲気の顔をして大きな声で元気良く挨拶をしている人間はおらんしな。

そして、何より一番の利点は笑顔になれるということや。新聞勧誘において笑顔になるというのは最も重要なことやと繰り返し言うとるが、その笑顔を挨拶一つで得られるというのやから、これほど便利なものはないわな。

人は挨拶を交わす際、無意識のうちに笑顔を作る習性がある。挨拶をしている人の顔の殆どが笑顔になっているはずや。不機嫌な顔で挨拶する者は、あまりおらんしな。

無理にでも人に対して挨拶をするように心がけていれば不思議と元気になっていくもんなんや。

また、挨拶をすることで相手からの印象も良くなる。挨拶をされた人が、その相手に対して悪く思うことは、まずない。

なぜなら、挨拶を交わしてくるということは、相手がその人を認めている証でもあるさかいな。人は他人から認められると嬉しいもんや。その気持ちが好意に変わる場合も多い。

挨拶されたことで気分を害する人が少ないのは、そうした心理的な要因があるからや。例え、新聞を売り込む目的であったとしてもな。

逆に言えば、挨拶もなしに、いきなり勧誘を始めれば、「無礼な人間」というレッテルを貼って話を聞く気にすらならんということになる。

挨拶をきっかけに会話が始まる。これは人間の社会では普通にあることや。新聞勧誘は、その延長と考えればええ。

新聞勧誘では、挨拶の後は、必ず相手の名前を呼ぶことを心がけなあかん。

「こんにちは(こんばんは)。○○さん」といった具合やな。

人は名前で呼ばれると呼んだ相手に親しみを感じ、認められたような気分になる。また、初対面であっても昔からの知り合いのように感じてしまう場合が多いと言われている。

それだけでお互いの距離が一気に縮まると。それを利用せん手はないわな。

そのためには客の名前を知らなあかんが、それはそれほど難しくはない。

まず表札を見る。一般の一戸建て住宅で表札が出ていない家など空き家以外は殆どないから、たいていはそれで分かる。

マンションやアパートなどの集合住宅の場合は、たまに表札に名前がないケースもあるが、その場合でも一階の郵便受けを確かめれば分かることが多い。

ご用聞き的な物言いは避けるというのも心がけたいことの一つや。

「○○新聞を取って貰えませんか」、「○○新聞を購読するつもりはありませんか」といった具合に、いきなりインターホンに向かって尋ね口調をする者がいとるが、それは止めておいた方がええ。

客の答えを待つような声かけをすれば、返ってくる言葉は「ノー」以外にはないからや。

「○○新聞を取って貰えませんか」と言われれば、「嫌です」。「○○新聞を購読するつもりはありませんか」なら「ありません」という返事がしやすくなるさかいな。

「どこの新聞を読んでおられるのでしょうか」というのも、まずい。「言いたくありません」とニベもない返答をされるのがオチや。

そう言われると次の言葉に窮するやろうと思う。

新聞勧誘の場合、大半の人は、それと知ると、どうして断ろうかと考えるケースが多い。

そんな時、断りやすい声かけ、質問をすれば、まさに渡りに船ということになる。

また、勧誘員の方も、そんな聞き方をした手前、「そこを何とか」というのも言いにくいし、言ったところで取り合って貰えない可能性の方が高い。

新聞勧誘員に、ご用聞き営業は向かない。そう心しとく必要がある。

それなら、どう言えば良いのか。

「○○新聞を取って貰えませんか」と言うのなら、「○○新聞を取ってください」。「○○新聞を購読するつもりはありませんか」なら、「○○新聞を購読してください」と、ストレートに言う方が、まだマシや。

これなら、即座に「嫌です」という返事を返しにくい。たいていは、「どうして?」という質問系の言葉が返ってくる。

これに対しては、「○○新聞を取ると得をしますよ」と言って次のトークが繰り出せる。

勧誘トークでは常に次の言葉を出しやすい状況に持っていかなあかん。そうすれば相手に考える余裕を与えず客を自分のペースに巻き込むことができる。

勧誘員のご用聞き調のトークは、すぐに終わってしまうので頂けんが、客からの質問は、いくらでも話を膨らませていけるさかい歓迎できるというところやな。

クッション言葉を省かないということも忘れん方がええ。

クッション言葉というのは、相手に何かを頼んだり願い事をしたりする場合、補助的に使う言葉のことや。

クッション言葉には「恐れ入りますが」、「失礼ですが」、「早速ですが」、「もし、よろしければ 」、「お忙しいとは思いますが」、「ご面倒をおかけいたしますが」といった具合に、いろいろある。

具体的な例で言えば、「こんにちは、○○さん、大変お忙しいところ、まことに申し訳ありませんが」と用件の前にクッション言葉を添えると、相手に対して謙(へりくだ)った気持ちを伝えることができ、与える印象が格段に上がるさかい、言われた方も無下に断ることができにくくなる。

ちょっとしたことやが、そのちょっとしたことが勧誘営業では大きな差となって表れてくるのやと知っておくことや。

他にもいろいろあるが、最初の段階では、この程度のことを知っておけば、ええやろうと思う。

ただ、最後に見切りの重要性というのもあるさかい、それについて少し話しておく。

人には相性のようなものがある。俗に言う「虫が好かん」相手に対しては敬遠したくなるし、「ウマが合う」人間となら、いくら話しても苦にならん。

その相性の善し悪しは人によって大きく違う。

それは新聞勧誘員と客との関係についても言えることで、「ウマが合う」人間同士が出会えれば契約して貰える確率が高まるし、反対に「虫が好かん」相手なら、少々条件が良くても断るのが人間や。

今更な話やが、新聞勧誘に絶対というものはない。こうすれば絶対に契約が取れるという便利な方法は存在しない。より確率が上げられる方法があるだけや。

ある新聞勧誘員と契約した客が、同じ新聞で同じ条件を提示した他の新聞勧誘員と契約するかと言えば、必ずしも、そうはならん。

そこに人間が介在する以上、どうしても相性の問題がつきまとうわけや。

その相性を少しでも良くするには、「客を持ち上げおだてる」、「客の言うことは否定しない」、「客の気分を害さない」といった勧誘方法がある。

基本的には「自分を殺す」ことが重要になるが、「虫が好かん」と第一印象で決めつけられると、それをひっくり返すのは、まず無理や。

営業は、よく粘ることやと教えられるが、いくら粘っても「虫が好かん」と思われてしまえば、どうにもならん。時間の無駄や。

そのあたりの見極めについては難しいものがあるが、「これは脈がないな」と判断すれば、なるべく早めに切り上げることや。

営業は、自分にとって簡単な相手を選んでするもので、難しい人間を落とすものやないというのが、ワシの考えやさかいな。

「いける」と思えるか、「こら、あかん」と感じ取るかで、押すか、あきらめるかすれば良いと。

そういったことは、ワシらのサイトやメルマガを見て日頃からコンノは勉強しているという。

普段は、それらの方法で、そこそこの契約をあげているが、客の中には、いろいろな人間がいて手を焼くことも結構多い。

これは、そんな客の話や。

コンノが、あるマンションのインターホンを押すと、中から「どちら?」という、ぶっきらぼうな響きの男の声が聞こえてきた。

「タナカさん、こんばんは。夜分遅くにすみません。近所の新聞販売店の者ですが……」と、コンノは表札の名前を見ながら定番どおりインターホンに向かって、明るく元気な声でそう告げた。

この時は、まだ午後7時くらいで「夜分」という時間帯ではなかったが、暗くなったというだけでコンノは、いつもそう言うように心がけていた。

ただ、これだけで玄関ドアがすぐに開くほど新聞勧誘は甘くない。たいていは、「新聞の勧誘ならいらん」とインターホン越しにニベもなく断られる。

この声の主のように、比較的若そうで、面倒臭そうな感じの男の場合は特に、そうや。

しかし、この時は、そのマンションのドアが簡単に開いた。

「新聞の勧誘?」

「ええ、そうです」

「土日だけ配達してくれるのなら取ってもええで」

「土日だけ……ですか?」

「そうや。前の新聞屋では月千円で土日だけA新聞を配達して貰うてたんや。それで頼むわ」

「申し訳ありませんが、それはできかねます。ウチの店ではN経やスポーツの読者の方でしたらプラス千円でA新聞の土日配達をすることはありますが、A新聞単独で土日のみの配達と言うのはやっていません。ウチは月ぎめだけでして」

「転勤で日本全国あちこちで新聞を取ったが、どこでも土日のみ配達を千円でやってくれた。お宅のとこだけだ、そんな融通が利かんのは」

そう言ってタナカは怒ったように玄関ドアを閉めてしまった。

コンノは、この客の言った言葉が気にかかり、ワシらに「果たしてウチが融通利かないだけで全国的には、それがまかり通っているのでしょうか?」と質問してきた。

念のため店主に確認したところ、やはり不可とのことやったという。

それに対しては、『NO.1390 これって良くある対応なのでしょうか?』(注1.巻末参考ページ参照)で、


回答者 ゲン


『転勤で日本全国あちこちで新聞を取ったが、どこでも土日のみ配達を千円でやってくれた。お宅のとこだけだ、そんな融通が利かないのは』というお客の言い分は、おかしい。

ワシの知る限り、そんなことをしているA新聞の販売店の方が全国的に見れば圧倒的に少ないと思うがな。

新聞には再販制度というものがある。再販制度に指定されている新聞は、製造元である新聞社が販売店に対して販売価格を設定できると法律で決められている。

A新聞社の場合ならA新聞の販売店に対して、朝刊と夕刊を顧客に毎日欠かさず届けることを条件に新聞社の決めた宅配料金を定価として販売させているというのが、それや。

つまり、値段や販売方法について、すべての決定権が新聞社にあるということやな。

新聞社の反対を押し切って、あるいは新聞社の意向に逆らって個別に価格を設定して新聞を販売すること自体が法律違反になるということや。

一般の商品の場合、「メーカー希望小売り価格」と表示されることはあるが、商店は、その価格で売らなくとも特段、法律によるお咎めは受けない。

むしろ、価格を設定した製造元、卸元の方が独占禁止法違反の罪で罰せられる。そのため「メーカー希望小売り価格」としか表示できんわけや。

しかし、新聞には、それが適用されない。反対に、小売り業者に該当する新聞販売店が勝手に値段をつけて売ることが禁じられている。これを法定定価と呼んでいる。

今回のケースで言えば、新聞社が認めない限り『土日のみの配達と言うのは出来ない』、『ウチは月ぎめだけでして』と答えるしか販売店にはできんということになる。

『後に念のため店主に確認しましたが、もちろん不可でした』というのも、当然、そうなる。

新聞社では「月極めで毎日配達すること」というのが基本になっているさかい、『土日のみの配達』を認め、容認することはまずない。

念のため、ハカセが、この客になってA新聞社の購読受付窓口に「土日だけA新聞を購読したいのですが月千円で配達して貰える販売店を紹介してくれますか」と尋ねたところ「当社では、そのような配達は行っていません」と一蹴されたとのことや。

したがって、A新聞社として公式な見解は『土日のみの配達はしない』ということになる。

もっとも、影に隠れて、その客の言うような対応をする新聞販売店が存在しないとは言い切れんが、普通は、あんたのように断るケースが多い。

ただ、程度の悪い拡張員や販売店従業員などの勧誘では、その客の言うようにしているケースも希にやが、あるという。

どういうことかと言うと、『土日配達のみで購読料千円』を月極め契約として受けたことにして、足らずの購読料金を拡張員や販売店従業員自身が負担することで、正規の契約をあげたとして、その勧誘員の成績にしようとするためや。

朝夕セット版やと約3千円、朝刊のみの統合版地域の場合は約2千円の負担になるが、『土日配達のみで購読料千円』を希望する客はサービス品を要求するケースが殆どないからその分が浮くし、貰える拡張料を差し引けば、負担額もかなり減るということで、そうする者もいるのやと。

まあ、「爆カード」と言うて、「新聞代は、こちらで払いますから契約してください」てなアホな勧誘員がおるさかい、そういう人間にとっては渡りに船の客ということになるのかも知れんがな。

そういう勧誘員とばかり遭遇していれば、『お宅のとこだけだ、そんな融通が利かないのは』と言い出す客もおるやろうと思う。

あるいは、そんな要望など聞き入れる販売店などないのを承知していて、そう言えば簡単に断ることができる断り文句の一つとして考え出されたものかも知れんがな。

いずれにしても、総体的には『果たしてウチが融通利かないだけで全国的にはそれがまかり通っているのでしょうか?』というようなことはないから心配せんでもええということや。あんたの対応は間違っていない。

どのみち、『転勤で日本全国あちこちで新聞を取った』という程度の客は、所詮、一過性、一見客に過ぎんから、どれだけ要望を聞き入れようとメリットはないと思う。利益率も殆どないに等しいしな。

相手にするなと言うと語弊があるかも知れんが、あんたの店の方針どおりにすれば、それでええと思うよ。


と回答した。

すると、


先日は早速のご回答ありがとうございます。先日の話には、実は後日談がありました。

件の相手に名刺を渡しておいたところ、後に電話があり、月ぎめで取っても良いとのことでした。

ありがたい申し出でしたので感謝を述べたところ、多忙なので勤務先まで契約に来て欲しいとの依頼でした。

ま、取るのは自宅と言うことでしたので、相手の希望に従い、勤務先である某量販店に出向きました。ちなみに上場会社で店長でした。

契約の前に、そこの量販店のクレジットカード契約を求められました。無理にとは言わない、とのことでしたが、どう見てもバーターでしたので、「新聞の月ぎめ契約はしていただけるのですね?」と念押ししたところ、「その気がなければ呼ばない」とのことでしたので、クレジットカードの申し込みをしました。

ちなみに初年度から年会費が1300円ほどかかるカードでした。

免許証の提示やらキャッシュカードによる引き落とし口座設定やらも終わりクレジットカードの発行手続きは完了したとかで、内容についていろいろ説明されました。

さて、では新聞契約の話となったら、またぞろ土日千円の話を持ち出してきて、それでやってくれ、と。

できませんと言ったら、だったら話しは終わりだ、帰ってくれ、こっちはあんたと違って忙しい、とかなんとか。

怒りを押し殺しつつ、それならそれで結構ですが、カード申し込みもキャンセルにしてほしいと言ったら、すでにカードの発行手続きは開始しているのでキャンセルは100%不可能。

どうしてもカードがいらないのなら手元に届いてから解約してくれ、年会費は請求されるけど、カードを申し込んだのはあなただから、こちらは強制してないから、と開き直りとも取れる態度でした。

さすがにカチンと来てそこの本社のお客様相談室と提携カード会社の問い合わせ窓口にクレームつけたら、カードは事前キャンセル扱いになり、そこの店長は本社からキツくお灸を据えられたようです。

神妙な声で「謝罪に出向かせてほしい」と件の店長から電話がありました。

このようなあわよくば新聞屋を引っ掛けてやろうと言う考えの相手にゲンさんは遭遇したことはありますか?


というメールが返ってきた。

まあ、この人の場合、事案自体は、ご自分で対応され解決されておられるから問題はないがな。

対処も、ほぼ完璧や。それについてワシから言うことは何もない。

『このようなあわよくば新聞屋を引っ掛けてやろうと言う考えの相手にゲンさんは遭遇したことはありますか?』ということについては腐るほどある。

このメルマガ誌上だけでも探してみると、『第16回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ここで遭ったが何年め?』、『第32回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part1 引っ越し取り込み』、

『第33回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part2 ゴミ部屋の住人』、『第34回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part3 ノミ屋』、『第113回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■民事裁判への考え方』、

『第123回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part 6 引っ越し成金の男』、『第173回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part8 あこぎな契約者』、

『第184回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ゲンさんのトラブル対処法 Part 6 クレーマー対策について』、『第14回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■狙われた新聞配達員』、『第63回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞トラブルあれこれ その1 それは契約不履行になる?』、

『第172回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞トラブルあれこれ その6 許されない、その逃げ得』、『第292回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店物語……その11 納得できない事について』(注2.巻末参考ページ参照)といったものが見つかった。

サイトのQ&Aに至っては掲載できんくらい多いので、この場では省かせて貰うが、その気になって探して頂ければ、すぐに見つけられるはずや。

ここで、その内の一つ、『NO.133 理不尽な中途解約客について』(注3.巻末参考ページ参照)というのが、極めつけやろうと思うので、それを紹介する。

これは今から11年ほど前の2005年8月3日に寄せられたものやが、ワシの記憶する限り、これより酷い顧客はいなかった。

その全文や。


NO.133 理不尽な中途解約客について


投稿者 某新聞販売店従業員さん 投稿日時 2005.8. 3 PM 0:36


以前のことですが、お客さんから中途解約の申し出が電話でありました。当然、契約期間が残っており…「契約期間が残っていますから、それまでは、ご購読していただきたいのですが」と、答えました。

お客:「新聞が読みにくいんじゃ!それに契約いうて、客に読めん新聞に金を払えというんか!!」

私: 「お言葉を返すようですが、契約して戴き、もう1年以上ご購読いただいています。あと1年もありませんし、このまま、何とかお願いできませんか?」

お客:「新聞入れても、金は払わん。明日から止めろ!!」

私: 「契約の解約には、規定がございます。今からお伺いしてお話させてください。」

この間に解約理由が店の不手際なのかを、お客に問いかけたが、答えてはもらえず…店の顧客情報(今は全部PC入力で一目でわかる)で、不配、集金トラブル、拡材の未届けが無い事を確認して、お客の家に向かいました。

私: 「○○新聞の○○です。お伺いさせていただきました。」

お客:「何しにきたんや、とにかく新聞はいれるな!もう、これで解決じゃろうが。」

私: 「いいえ、契約期間をお客様の事情で解約と言う事になれば、契約書の裏面に記載されているように、残りの期間に対しての違約金をいただかなくてはいけません。」

お客:「そんな契約書、なんの効力もないんじゃ!イネや!(帰れ)」

私: 「そういうわけにはいきません。契約していただいた時に、クーリング・オフのお話も、契約期間の確認も、サービス品の話も全てお話いたしました。お客様には、ご理解のお返事を頂いてから、契約書にサインもいただいております。小さな契約書ではありますが、効力はあります。応じていただけないですか?」

お客:「消費者センターに苦情をいうからの!後で詫びいれてきても、今度は損害賠償で訴えるから、その覚悟しとけ!」

私: 「わかりました。1週間したらもう一度お伺いさせて下さい。私共に落ち度がございましたら、訴えられても結構です。」

冷静にかつ、丁寧に応対したつもりだと、今でも思っていますが…元来、心配性なもので夜も眠ることは出来ませんでした。

3日後、消費者センターから問い合わせが入って、簡単な質問があり、事情を説明すると我々に問題のないことを分かっていただけました。

センター側は非常に好意的に受け取ってくださり、以降、他店や他系統紙でのトラブルも相談を受けることがあるようになりました。

1週間後、再度、訪問しましたが…そこでビックリする扱いを受けました。

私: 「○○新聞の○○です。」(そこには、たくさんの親戚や、知人が集まっていました)

お客:「金払ったらええんやろ!クソ新聞屋が!!なんぼじゃ!」

私: 「○○○円頂きたいと思います。」これは、センターの方にも、話していました。センターの方が好意的に思ってくださったのは、この程度の解約金を提示したからだと思っています。良心的な店だと評価していただきました。

お客達は、数枚の1000円札で、鼻をかみ・破った上に、それを玄関前に投げ「金は金やろ!拾ってイネや!」とその場で、ひどい笑いものとしてさらされました。

写メで撮られ、色んな人に送っている様子。しかたなく「ありがとうございました」とだけ告げ、後にしようとすると、今度は灰皿が飛んできて、腕にあたってしまい、腫れてしまいました。

暴行罪にも、侮辱罪にも当たると思いますが・・・何も言わず車の中で悔しくて泣きながら帰りました。それでも、怒っちゃダメだし、正論を言っちゃだめだ・・・。一応仕事は出来たのだから・・・。そう自分に言い聞かせて帰りました。

近所には読者もいるし、揉め事が起こったことが噂になるのは、店や本社にはよくない事だと思いますので、言いたいことも言えず我慢するしかありませんでした。けがも命に係わるわけじゃ無いし。とにかく、その日は、浴びるほど酒を飲んで自分をごまかしました。

ゲンさんは、こんな経験ありますか。また、こんなとき、どうしたら良かったのでしょう。私には、外に方法は思いつきませんでした。


回答者 ゲン


この業界に長くおれば、常識はずれの横暴な客に出くわすこともある。当然、ワシもその例に漏れず、その手の客も結構いとった。

せやけど、あんたほど、ひどいめに遭うたことはない。もっとも、ワシら、拡張員に言うのと、あんたら販売店の従業員に対して言うのとでは、客も態度を変えるのかも知れんけどな。

それにしても、あんたのとった態度はえらい。良う我慢したと思う。どんなに、人間のできた者でも真似のできることやない。

ワシも理屈では、こういう場合は我慢するのが、ベストやとは分かっとるが、実際、そういう場面に遭遇したら、どういう態度に出るか自分でも自信がない。

こういう段階になれば、人間の尊厳にまで関わることやからな。この場合、あんたの言う傷害罪、侮辱罪で告訴するのも当然やと思う。それをあんたは、店のことを第一に考え思い止まった。本当に頭が下がる。

その場で怒りを爆発させるのは簡単や。もっとも、その相手も端から、それが狙いやったのやろうと思う。

その僅かな、金を惜しんでのことか、あんたを怒らせることで、逆に追い込み、店からも某かの金でも取ろうと思うてのことかも知れんがな。

これは、ヤクザの良うやる初歩的な手口や。自分一人では自信もないから、衆を頼むというのもそうなることを予想してのことやし、札を鼻でかむというのも、どこかの低俗なヤクザの入れ知恵やった可能性すらある。

最後に、灰皿を投げつけたのも、あんたがその誘いに乗らんかったから、当てが外れ悔し紛れのことやったのやろという気がする。

あんたは、確かに、その場は、みじめな思いをされたやろうけど、人間としての戦いには大勝利したとワシは思うとる。実際の勝負もあんたの勝ちや。

その人間は、自分の思いを消費者センターに苦情という形で言うたのに、その消費者センターから、おそらくは、たしなめられたはずで、当てが外れたというのも、その一因かも知れんけどな。

客という立場で勘違いする人間が、世の中には多い。しかし、消費者センターという所は、苦情を言うて来る人間すべての意向を取り上げるとは限らん。

言い分を聞いた上で、相手も確かめ、適切にアドバイスするのが普通や。消費者センターも、当然やが、苦情を言うて来る人間にも、えげつないのがおるというのも良う知っとるから、話をそのまま信じることはない。

今回のように、双方の言い分を聞いた上で、アドバイスする。そのアドバイスも、法律が中心になるから、違法行為がなければ、その苦情を取り上げるようなこともせん。特に、今回のようなケースやと、ほとんどが門前払いになる。

一方的な契約解除は、相当の事由がないと絶対にできん。双方の話し合いが不可欠となる。それが、世の中の常識、通例なんやが、哀しいかな、それの分からん人間がおるのもまた事実や。

今回の、この客が正にこれやな。かわいそうやけど、こういう人間は、おそらく死ぬまで救われんやろうと思う。

特に今回、あんたにしたことを何とも思うてないようやと、こういう人間は、当然のように似たようなことを他でも繰り返す。

その相手が、あんたのように我慢強い人間ばかりやとは限らん。人間が一番怒る原因は、他人に馬鹿にされたときや。それが、刃傷沙汰になることなんか世の中にはナンボでもある。珍しいことやない。

つまり、この人間は、常にそういう危険と隣り合わせに生きとるということになる。いつかはえらいめに遭う。実際にそういう人間を何人も見てきたから分かる。

因果応報という使い古された言葉やが、これは、人の世には必ずあるもんやと心しとかなあかん。自分のした行いは、いつか必ず何かの形で報いとして返ってくる。ええことも悪いこともな。

それにしても、この客は何でいきなり解約やなんて言い出して、そんな真似までしたんかな。

販売店や配達のクレームやないということなら、考えられるのは一つしかない。他の新聞と契約したか、取るつもりになったということやろうと思う。

理由は、知り合いにその新聞店の人間がおるのか、単に拡材に釣られただけなのかも知れんがな。いずれにしても、しょうもない人間やと言うしかない。

しかし、何でも物は考えようで、そのおかげで、消費者センターからでさえ一目おかれるようになったし、あんたの忍耐力も実践できたから、自信もついたやろ。

世の中、悪いことが、必ずしも悪い結果にはならんということや。そう思うたら、少しは気も晴れるやのやないかな。


というものや。

一般的には、新聞勧誘員の方が悪質な人間が多いと思われているが、実際は、これらの話にもあるとおり、悪質な客もかなりの確率で存在する。

ただ、ネット上では悪質な新聞勧誘員ばかりがクローズアップされるのに比べ、新聞勧誘員の方から「こんな、えげつない客もおるんやで」てなことは殆ど発信されんさかい、一般にはそれと知られていないだけの話でな。

ネット広しといえども、悪質な新聞契約者、新聞読者がいるという具体的な話を掲載しとるのは、おそらくワシらのサイトだけやろうと思う。

客は新聞を選び、嫌な勧誘員なら拒否できるが、ワシらには客を選ぶことはできん。

今更やが、一般人の中には良い人もいれば、あくどい輩もおる。それに一切の例外はない。

あくどい輩が、真面目な勧誘員と遭遇すれば、泣かされる、あるいは嫌な思いをさせられることも起きるということや。

まあ、新聞勧誘をする以上は、ある程度、それは覚悟しとかなあかんがな。

ただ、どんなにあくどい輩が相手でも、それなりの対処法はいくらでもあるさかい、万が一、そういったケースで困ることがあれば、いつでもワシらに相談してきたらええ。



参考ページ

注1.NO.1390 これって良くある対応なのでしょうか?
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage10-1390.html

注2.第16回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ここで遭ったが何年め?
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-16.html

第32回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part1 引っ越し取り込み
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-32.html

第33回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part2 ゴミ部屋の住人
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-33.html

第34回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part3 ノミ屋
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-34.html

第113回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■民事裁判への考え方
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-113.html

第123回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part 6 引っ越し成金の男
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-123.html

第173回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員泣かせの人々 Part8 あこぎな契約者
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-173.html

第184回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ゲンさんのトラブル対処法 Part 6 クレーマー対策について
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage13-184.html

第14回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■狙われた新聞配達員
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-14.html

第63回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞トラブルあれこれ その1 それは契約不履行になる?
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-63.html

第172回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞トラブルあれこれ その6 許されない、その逃げ得
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-172.html

第292回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■新聞販売店物語……その11 納得できない事について
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage19-292.html

注3.NO.133 理不尽な中途解約客について
http://siratuka.sakura.ne.jp/newpage10-133.html


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